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異色の経歴を持つ黒人作家

USA チェスター・ハイムズ
(Chester Bomar Himes)

イマベルへの愛
「イマベルへの愛」
(1957年)
(早川書房)
 アメリカの黒人ミステリー作家。ミズーリ州に住む父親は黒人、母親は白人という家庭に生まれ、幼少の頃は父親の転職に合わせてアメリカ各地を転々とする日々を過ごしていました。

 やがてオハイオ州の高校を卒業すると、ホテルのボーイをしながらオハイオ州立大学に進学し医師を志しますが、わずか2年で中退します。
 その後は身を持ち崩し、10台後半から20代にかけての青春時代を、強盗罪の罪で7年刑務所に服役するという苦難の人生を歩みます。

 しかし彼はここで人生を諦めることはなく、この刑務所での服役生活の最中に書くことに興味をおぼえ、強靭な精神力で7年という長い期間の間に買い手のつかない作品を数多く書き上げていたといいます。

 1936年に出所すると、しばらくは国内の新聞社や造船所で働いていましたが、間もなく結婚し、それを契機に当時の人気作家ルイス・ブロムフィールドの執事となり、マラバル農園に住み込みで農夫として働くようになります。そしてこの間ずっと書くことはやめず、いくつかの小説をものにしています。

 1945年、ようやく失職の恐怖と絶えず闘い続けながら造船所で働く青年を主人公にした小説「わめき出したら放してやれ (If He Hollers Let Him Go)」がダブルデイ社により刊行され、長編デビューを飾ります。

 この作品はまずまずの売行きを示しますが、過激な諷刺を売り物とした彼の作品は人々の反発を買い、その後さっぱりと売れなくなり、1953年になるとアメリカを離れる決意を固めたのです。そしてイギリスからポルトガルへと渡り、やがてフランスのパリへと辿り着きます。
 ちなみに以後ハイムズは、アメリカには二度と戻ることはなかったらしく、フランスとスペインで残りの人生を過ごしています。

 そんな数々の挫折と苦労を経験してきた彼が作家として名声を博すようになったのは、1957年、このフランスでのことでした。
 フランスのガニマール社の〈セリ・ノワール〉の監修者であったマルセル・デュアメルの勧めで探偵小説を書くこととなったハイムズは、アメリカのハーレムを舞台に黒人刑事の墓堀りジョーンズと棺桶エドのコンビの活躍する長編「イマベルの愛」を書き上げます。
ロールスロイスに銀の銃
「ロールスロイスに銀の銃」
(1965年)
(角川書店)
ピンク・トウ
「ピンク・トウ」
(1961年)
(河出書房新社)

 すると間もなくこの作品がジャン・コクトーから激賞され、1958年のフランス推理小説大賞を受賞し、一躍〈セリ・ノワール〉を代表する大ベストセラーとなったのです。

 それからはこの黒人コンビの登場するシリーズを中心に作品を発表。このシリーズは全部で8編が書かれて、フランスでは大変な人気を集めたのでした。

 もっとも詐欺師や売春婦、麻薬密売人、コソ泥やヤクザなどが蠢く暴力的で薄汚いハーレムを舞台とし、独特のブラック・ユーモアを織り交ぜて描かれたこのシリーズは、ノワール小説の流行していたフランスでこそ高く評価されていたものの、彼の母国アメリカでは「暴力と性の作家」というレッテルを貼られてしまい、数年経ってハードボイルド作家として再評価されるまで、長い期間陽の目を見ることはなかったといいます。

■作家ファイル■

出身地 アメリカ、ミズーリ州ジェファースン・シティ
学歴 オハイオ州クリーヴランドの高校を卒業後、オハイオ州立大学へ進学(2年で中退)
生没 1909年7月29日〜1984年12月12日
作家としての経歴
1934 強盗罪での服役し、物語を書くようになってから5年経ち、ようやく一つの短編が〈エスクワイア〉誌に掲載される(服役中に売れたのはこれだけ)
1945 ようやく失職の恐怖と絶えず闘い続けながら造船所で働く青年を主人公にした小説「わめき出したら放してやれ (If He Hollers Let Him Go)」がダブルデイ社により刊行され、長編デビュー
1957 フランスのガニマール社の〈セリ・ノワール〉より、アメリカのハーレムを舞台に黒人刑事の墓堀りジョーンズと棺桶エドの活躍する長編「イマベルの愛」を刊行。翌1958年、「イマベルの愛」がフランス推理小説大賞を受賞し、一躍大ベストセラーに
1970 長編「ロールスロイスに銀の銃」が映画化
1991 「イマベルの愛」が「レイジ・イン・ハーレム」のタイトルで映画化
シリーズ探偵 墓堀りジョーンズと棺桶エド・ジョンソン (Grave Digger Jones and Coffin Ed)
代表作 【墓掘りジョーンズと棺桶エド】
「イマベルへの愛」「ロールスロイスに銀の銃」

【ノンシリーズ】
「ピンク・トウ」

■著作リスト■

1 墓堀りジョーンズと棺桶エド登場作品リスト

2 その他の作品

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
If He Hollers Let Him Go
(わめき出したら放してやれ)
1945 - 処女長編
失業小説
Lonely Crusade
(孤独な十字軍)
1947 -  
Cast the First Stone
(Yesterday Will Make You Cry)
(最初の石を投げろ)
1952 -  
The Third Generation
(第三のジェネレーション)
1954 -  
The End of a Primitive
(原始人間)
1955 -  
ピンク・トウ
(黒い肉体)
1961 河出書房新社 人間の文学20
浪速書房('67)
性を題材にした諷刺小説
A Case for Rape
(Une Affair de viol)
1963 -  
Run Man Run 1966 - 「Dare-Dare」(1959)の改訂版
Plan B 1983 -  

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
Black on Black 1973 -  
The Collected Stories of Chester Himes 1990 -  

【邦訳短編】

いずれも短編集2に収録

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
Marijuana and a Pistol
マリファナと拳銃
1940 HMM'04.7  
The Snake
へび
1959 番町書房「続・世界怪奇ミステリ傑作選」('77)
奇想天外'74.1
 
Tang
ハーレム八番街に届いたもの
1967 HMM'93.11  
The Night's for Crying
夜に哭く
  早川書房 黒人文学全集8「黒人作家短篇集」('61)  
Mama's Missionary Money
ママの伝道寄付金
  新潮社「黒人作家短編集」('74)  
Money Don't Spend in the Stir
相続人は檻の中
  HMM'94.11  
On Dreams and Reality
夢にうつつに
  HMM'05.5  
The Song Says 'Keep on Smiling'
”笑っていろ”と歌は言う
  HMM'05.7  

【自伝】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
The Quality of Heart 1972 -  
My Life of Absurdity
(わが不条理なる人生)
1976 -  

【参考】「狂った殺し」(早川書房 ハヤカワポケットミステリ)
「ピンク・トウ」(河出書房新社 人間の文学20)
 


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