贋作ホームズ特集

■ホームズもののパロディ・パスティーシュの歴史■

ソーラー・ポンズの事件簿
「ソーラー・ポンズの事件簿」
(オーガスト・ダーレス)
(東京創元社)
 アーサー・コナン・ドイルの生み出したシャーロック・ホームズ譚は聖典として4長編と56短編がありますが、これ以外に様々な作家がホームズを題材にした作品を数多く発表しています。これらは大きく分けてパロディとパスティーシュに分類できます。

 簡単に説明すれば、パロディというのは戯作ともいい、特定の作品や名探偵を戯画化し、皮肉かつユーモラスに描いたものを指し、パスティーシュは贋作ともいい、原作そのもの忠実に描くことを目的としているものを言います。

 ホームズものの最初のパロディが登場したのは短編「ボヘミアの醜聞」が発表された翌年の1892年、〈アイドラー・マガジン〉誌の5月号でのことだったそうです。発表したのはイギリス初の外国人探偵ユージーヌ・ヴァルモンの生みの親で、ドイルの友人でもあったロバート・バーで、「Detective Stories Gone Wrong:The Adventures of Sheroaw Kombs(シャーロウ・コームズの冒険、のちペグラムの怪事件に改題)」という作品ででした。

 それから100年以上が経ち、ドイル没後50年も過ぎ版権が消滅した今、ますますこういったパロディ、パスティーシュは出版され続けています。

 こういった作品が星の数のように次々と生み出されていくことが、ホームズの人気を物語っているともいえると思います。

 これらの数多くの作品の中でも特に重要とされているものが3つあります。

 まず初めがドイルが1927年5月に「ショスコム・オールド・プレース」を発表し、ホームズものの筆を絶った翌年の1928年から発表された、アメリカの作家オーガスト・ダーレスによるホームズに生き写しのキャラクター〈ソーラー・ポンズ〉の活躍するシリーズで、長短編合わせて全部で70作品余りが書かれています。

 次に1952年12月から〈コリアーズ〉誌に連載された12編を収めた、ドイルの息子であるエイドリアン・コナン・ドイルと本格時代の巨匠ジョン・ディクスン・カーの二人が合作した短編集「シャーロック・ホームズの功績」(1954年)が挙げられます。 この作品ではホームズの作品中で名前しか登場しないいわゆる”語られざる事件”12編を描かれています。
 ディクスン・カーはこれ以前に作家活動を一時中断して遺族公認の評伝「コナン・ドイル」を発表していますが、その際にドイルの息子であるエイドリアンと知りあったのがこの作品を生むきっかけになったと言われています。
シャーロック・ホームズの功績
「シャーロック・ホームズの功績」
(アドリアン・コナン・ドイル、
ジョン・ディクスン・カー)
(1954年)
(早川書房)
シュロック・ホームズの冒険
「シュロック・ホームズの冒険」
(ロバート・L・フィッシュ)
(1966年)
(早川書房)

 最後に現代の短編の名手として知られるロバート・L・フィッシュの生み出した〈シュロック・ホームズ〉シリーズも重要な作品の一つです、その没後にはアメリカ探偵作家クラブ(MWA)に最優秀処女短編賞としてのフィッシュ記念賞が創設されたほどの優れた短編作家であったフィッシュが書いたこのパロディ・シリーズは1960年に〈エラリー・クイーン・ミステリ・マガジン(EQMM)〉に「アスコット・タイ事件」が発表されて以来、彼が亡くなる1981年までに全部で32編が書かれています。

 その他にも、長編ではホームズ隠退後の事件を描いたH・F・ハードの「蜜の味」や、ホームズもののパロディとして評価の高いニコラス・メイヤーの「シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険」(1976年)が有名です。

 短編では熱烈なシャーロキアンとして知られるミステリ作家にして評論家であるヴィンセント・スターレットの「珍本『ハムレット』事件」や、発表当時はドイル名義で書かれた「指名手配の男」(ともに「ホームズ贋作展覧会」所収)や、エラリー・クイーンが編纂した「シャーロック・ホームズの災難」所収の短編は外すことができません。
 この短編集の中ではモーリス・ルブラン、アガサ・クリスティー、エラリー・クイーン、アントニイ・バークリー、スチュアート・パーマー、アントニイ・バウチャーなど、錚々たる顔ぶれが名前を連ねています。

 更に現代では本格作家としてもつとに名高い女流作家のジューン・トムスンによる一連のパスティーシュがシャーロキアンからも高い評価を得ていて、現在4冊の短編集が刊行されています。

 他にもホームズ以外のマイクロフトが活躍する作品やホームズのライヴァルである天才犯罪者モリアーティ教授の活躍するジョン・ガードナーの「犯罪王モリアーティの生還(上下)」「犯罪王モリアーティの復讐(上下)」、ホームズの子孫の活躍する作品などもあり、全てを目に通すのは容易なことではありませんが、ホームズを心から愛する人々の熱意が伝わってきてついつい手に取りたくなるのがシャーロキアンというものなのでしょう。
シャーロック・ホームズの秘密ファイル
「シャーロック・ホームズの
秘密ファイル」
(ジューン・トムスン)
(1990年)
(東京創元社)

■ホームズもののパロディ・パスティーシュ邦訳作品紹介■

【ジューン・トムスンによるパスティーシュ】

No. 事件名 発表年 邦訳 種別 著者
ホームズの秘密ファイル 1990 創元文庫272-1 パス ジューン・トムスン
ホームズのクロニクル 1992 創元文庫272-2 パス
ホームズのジャーナル 1993 創元文庫272-3 パス
ホームズのドキュメント 1997 創元文庫272-4 パス

【原書房刊行のアンソロジー】

No. 事件名 発表年 邦訳 種別 著者
シャーロック・ホームズ
 クリスマスの依頼人
1996 原書房('98) パス マーティン・H・グリーンバーグ編
シャーロック・ホームズ
 四人目の賢者
1999 原書房('99) パス
シャーロック・ホームズ
 ベイカー街の殺人
2001 原書房('02) パス
シャーロック・ホームズ
 ワトスンの災厄
2002 原書房('03) パス
シャーロック・ホームズの失われた事件簿 1989 原書房('04) パス ケン・グリーンウォルド著
デニス・グリーン&A・バウチャーによるラジオドラマの小説化
シャーロック・ホームズ
 ベイカー街の幽霊
2006 原書房('06) パス マーティン・H・グリーンバーグ編

【その他の長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 種別 著者
蜜の味 1941 早川文庫83-1
HMM'81.11-12
パス H・F・ハード
恐怖の研究 1966 早川文庫2-10
HPB991
パス エラリイ・クイーン
シャーロック・ホームズの優雅な生活 1970 創元文庫102-1 パス M&M・ハードウィック
犯罪王モリアーティの生還 1974 講談社文庫(上下) パス ジョン・ガードナー
シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険 扶桑社ミステリー
立風書房('81)
パロ ニコラス・メイヤー
シャーロック・ホームズの復活 1975 新潮文庫 パロ ジュリアン・シモンズ
犯罪王モリアーティの復讐 1976 講談社文庫(上下) パス ジョン・ガードナー
ウエスト・エンドの恐怖 扶桑社ミステリー
立風書房('80)
パロ ニコラス・メイヤー
ホームズ最後の対決 1977 講談社文庫('80) パス ロバート・リー・ホール
10 シャーロック・ホームズ対ドラキュラ 1978 河出文庫('92) パロ ローレン・D・エスルマン
11 シャーロック・ホームズ対オカルト怪人 河出文庫('96) パロ ランダル・コリンズ
12 シャーロック・ホームズの謎
 モリアーティ教授と空白の三年間
1984 原書房('95) パス マイケル・ハードウィック
13 エドウィン・ドルードの失踪 1991 創元文庫289-1 パス ピーター・ローランド

【その他の短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 種別 著者
名探偵オルメス 192? 芸術社 推理選書3
大白書房('42)
パロ カミ
シャーロック・ホームズの災難/上 1944 早川文庫2-38・39(上下) 複数 エラリイ・クイーン編
(アンソロジー)
シャーロック・ホームズの災難/下
シャーロック・ホームズの功績 1954 HPB450 パス ドイルの息子エイドリアンとディクスン・カーの合作
シュロック・ホームズの冒険 1966 早川文庫42-1
HPB1079
パロ ロバート・L・フィッシュ
シャーロック・ホームズ17の愉しみ 1967 河出文庫
講談社('80)
複数 J・E・ホルロイド編
シュロック・ホームズの回想 1974 早川文庫42-4 パロ ロバート・L・フィッシュ
ソーラー・ポンズの事件簿 1979 創元文庫184-1 パス オーガスト・ダーレス
(日本独自の編纂)
ホームズ贋作展覧会 1980 講談社文庫
河出文庫('89)
複数 アンソロジー
(日本独自の編纂)
10 シャーロック・ホームズの新冒険/上 1987 早川文庫75-10・11(上下) 複数 アンソロジー
11 シャーロック・ホームズの新冒険/下
12 シュロック・ホームズの迷推理 2000 光文社文庫 パロ ロバート・L・フィッシュ
(日本独自の編纂)
13 シャーロック・ホームズ東洋の冒険 2003 光文社文庫('04) パス テッド・リカーディ
14 シャーロック・ホームズの栄冠 2007 論創社 論創海外ミステリ61 複数 北原尚彦編
(日本独自の編纂)

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