USA ドロシー・B・ヒューズ
(Dorothy Belle Flanagan Hughes)

孤独な場所で
「孤独な場所で」
(1947年)
(早川書房)

 アメリカの女流推理小説家。カンザスシティに生まれ、ミズーリ大学ではジャーナリズムを専攻。その後コロンビア、ニューメキシコ両大学でも学びます。1931年には詩集「Dark Certainty(闇の確信)」を刊行して〈Yale Series of Younger Poet〉という賞も獲得しています。

 ミステリー作家を志していた彼女は、その後何作品かの推理小説を書き上げて出版社に送りますが、最初はなかなか採用されず、1940年になってようやく「The So Blue Marble(青い大理石)」という作品が出版されることとなり、ミステリー作家としてデビューを果たします。

 以後は「墜ちた雀」(1942)や未来の国際的陰謀を描いたスパイ小説風のスリラー「デリケイト・エイプ」などの作品を順調に発表し続け、また1947年にはサスペンス小説の古典的名作として名高い代表作「孤独な場所で」を発表。40年代にその代表作のほとんどを発表して好評を博し、作家としての名声を不動のものとします。

 彼女の読む者に強烈な印象を残す巧みなストーリーテリングと見事な文体はミステリ評論家として名高いアントニー・バウチャーからも「イギリスの文学的スパイ小説にどこか通じるものがある」と高い評価を得ています。

デリケイト・エイプ
「デリケイト・エイプ」
(1944年)
(早川書房)

 また作家活動以外にミステリ評論の分野でも活躍し、ニュー・メキシコの〈アルブケルキ・トリビューン〉や〈ロサンジェルス・デイリー・ニューズ〉紙などのミステリ小説批評欄を担当。ジュリアン・シモンズからもその才能を讃えられ、1950年にはアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞の評論賞を受賞しています。

 評論家としては、その他にも〈弁護士ぺリイ・メイスン〉シリーズで有名なアメリカ推理小説界の巨匠E・S・ガードナーについて書かれた評論集「ぺリイ・メイスン自身の事件」を発表したことでもよく知られています。

 1978年にはそれまでの作家・評論活動などの功績が讃えられてアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞の巨匠賞を受賞。名実ともに巨匠の仲間入りを果たしています。

 しかしわが国においては、1950年代に数作品かが邦訳されたもののそれ以後は邦訳も途絶え、どちらかといえば不遇の作家の一人でした。これは「デリケイト・エイプ」などの邦訳された作品がスパイ小説風であったことからスパイ小説の系統に属する作家だと誤解されてしまったことが災いしたようです。

別冊宝石66号
「別冊宝石66号」
(1957年)
(宝石社)

 もっとも近年になって代表作である「孤独な場所で」が邦訳され、彼女の一連のサスペンス作品は日本でも再び再評価されつつあるようです。


■作家ファイル■

出身地
アメリカ、ミズーリ州カンザスシティ
学歴
ミズーリ大学卒業後、コロンビア大学、ニューメキシコ大学で学ぶ
生没
1904年8月10日(5月6日という資料も)~1993年5月6日
作家としての経歴
1940
「The So Blue Marble(青い大理石)」でミステリ作家としてデビュー
1947
代表作のサスペンス小説「孤独な場所で」を発表(1950年にハンフリー・ボガード製作・主演で映画化)
1950
アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞の評論賞を受賞
1978
E・S・ガードナーの評伝「ぺリイ・メイスン自身の事件」を発表
1978
アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞の巨匠賞を受賞
シリーズ探偵
なし
代表作
「The So Blue Marble(青い大理石)」
「墜ちた雀」「Ride the Pink Horse(ピンクの馬に乗れ)」
「孤独な場所で」

■著作リスト■

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The So Blue Marble
(青い大理石)
1940 -
2 The Cross-Eyed Bear
(The Cross-Eyed Bear Murders)
-
3 The Bamboo Blonde 1941 -
4 墜ちた雀 1942 別冊宝石66('57) 映画化
5 影なき恐怖 1943 別冊宝石66('57)
6 デリケイト・エイプ 1944 HPB188
7 Johnnie -
8 Dread Journey 1945 -
9 Ride the Pink Horse
(ピンクの馬に乗れ)
1946 - 映画化
10 The Scarlet Imperial
(Kiss for a Killer)
-
11 孤独な場所で 1947 HPB1733 ハンフリー・ボガード製作・主演で映画化('50)
12 The Big Barbecue 1949 -
13 The Candy Kid 1950 -
14 The Davidian Report
(The Body on the Bench)
1952 -
15 The Expendable Man 1963 -

【邦訳短編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Spotted Pup
ぶちのある犬
1945 HMM'91.5
2 情熱の殺人 1946 別冊宝石66('57)
3 ディアフォーンの遺体
(危ないディアフォーン)
(荘園の殺人)
1964 光文社文庫「世界ベスト・ミステリー50選/下」('94)
EQ'91.11(84)
EQMM'65.10
4 シャーロック・ホームズとマフィン 1987 早川文庫75-11「シャーロック・ホームズの新冒険/下」('89) シャーロック・ホームズのパスティーシュ
5 That Summer at Quichiquois
思い出のサマーキャンプ
1991 早川文庫「ウーマンズ・アイ/下」('92)
6 Horatio Ruminates
いたずら猫の大作戦
二見文庫「猫の事件簿」('94)
7 Everybody Needs Mink
誰もがミンクが好き
HMM'89.1
8 同窓会 青弓社「殺人コレクション」('92)

【詩集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Dark Certainty
(闇の確信)
1931 -

【エッセイ・評論その他】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 ぺリイ・メイスン自身の事件
─E・S・ガードナー伝
1978 早川書房('83)
HMM'78.12-'79.6
評論
2 誰も知らなかったクリスティー 1977 早川書房「アガサ・クリスティー読本」('78) 評論

【参考】「別冊宝石66号 ドロシー・ヒューズ篇」(宝石社)
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