元俳優で歴史・冒険小説の分野でも活躍した活動家

UK A・E・W・メイスン
(Alfred Edward Woodly Mason)

薔薇荘にて
「薔薇荘にて」
(1910年)
(国書刊行会)

 A・E・W・メースンとも表記。イギリスの作家で、ロマン文学小説家・劇作家としても著名。

 ロンドンの公認会計士の息子として生まれ、容姿が整っていたためオックスフォード大学在学中から俳優を目指して演劇俳優として活躍し、卒業後は職業劇団のベンスン一座やコムトン一座に入って各地を巡回しますが、1895年30歳の時に舞台をから引退して作家に転身する決意を固めます。

 そして処女作の長編歴史小説「ワストデイルのロマンス」を発表していきなり注目を集め、翌1896年に発表した「The Courtship Morrice Buckler」が読者の人気を集めて大衆作家としての地位を確立します。

 1902年になるとそれまでの歴史小説家から冒険小説の分野に作風を変え、長編「サハラに舞う羽根(四枚の羽根)」を発表しますが、当時まだ鉄道も敷かれていない不毛の荒野を、駱駝と言葉が通じない土民兵を伴い現地取材を敢行して書け上げたというこの作品は、そのリアリティ溢れる文体でたちまち大評判となり、何度となく映画化されるなど彼の代表作として位置づけられる作品の一つです。

矢の家
「矢の家」
(1924年)
(東京創元社)

 その後自由党の下院議員として立候補して当選を果たしますが、ほとんど活動せず一期で再選を断念。その後しばらくは若い頃からの舞台への情熱が再燃したのか自作を戯曲化したり、書き下ろしの戯曲を発表したりしていました。

 そして1910年、フランス人探偵アノーを主人公とする長編「薔薇荘にて」を発表し、推理小説の世界にも足を踏み入れます。

 この作品「薔薇荘にて」は、1913年に発表されたE・C・ベントリーの「トレント最後の事件」とともに、それまでの短編中心のシャーロック・ホームズ以来の作風から脱却し、長編・謎解き中心の新たな推理小説の一歩を踏み出した記念すべき作品として歴史的に意義深い作品として知られています。

 推理小説の分野ではこの「薔薇荘にて」と、同じくアノー探偵の活躍する長編「矢の家」(1924)の2つの長編が古典的名作として位置づけられていて、アメリカ本格黄金時代の巨匠S・S・ヴァン・ダインやアメリカの評論家ハワード・ヘイクラフトらからも特に高く評価されています。

サハラに舞う羽根
「サハラに舞う羽根」
(1902年)
(東京創元社)

 ヨット、ライフル射撃、ゴルフ、クリケット、旅行、登山などの趣味を持ち、第一次大戦中は諜報活動に従事するなど、とても活動的な人物だったそうです。 その諜報活動の経験を活かして書いたのがスパイ・スリラー「比類なき虎」(1927)、登山の経験を活かして書かれたのが「モンブランの処女」(1907)です。

 また1907年に発表した「The Broken Road」はインドを舞台にした作品で、作者自身がインド旅行をした上で描き上げた作品ですが、その見事な風俗描写は当時のインド総督カーゾン卿から賛辞の言葉が届けられたほどであったといいます。


■作家ファイル■

出身地
イギリス、ロンドンダルウィッチ地区エヴァレイ(公認会計士の息子として)
学歴
オックスフォード大学トリニティ・カレッジ卒
生没
1865年5月7日~1948年11月22日(83歳、老衰にて)
作家としての経歴
1895
俳優から作家に転身し、歴史長編小説「ワストデイルのロマンス」で作家としてデビュー
1902
冒険小説「サハラに舞う羽根(四枚の羽根)」を発表し、人気作家になる
1910
自身初の推理小説であるアノー探偵登場の長編「薔薇荘にて」を発表
シリーズ探偵
フランス人探偵ガブリエル・アノー (Monsieur Hanaud)
代表作
【アノー探偵】
「薔薇荘にて」「矢の家」
【ノンシリーズ】
「サハラに舞う羽根(四枚の羽根)」

■著作リスト■

1 ガブリエル・アノー登場作品リスト

2 その他の主な作品

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 A Romance of Wastdale
(ワストデイルのロマンス)
1895 - 歴史小説
デビュー作
2 The Courtship Morrice Buckler 1896 - 歴史小説
3 The Philanderers 1897 -
4 Lawrence Clavering -
5 Miranda of the Balcony 1899 -
6 The Watchers - 時代冒険小説
7 Parson Kelly 1900 - アンドリュー・ラングとの合作
歴史小説
8 Clementina 1901 - 歴史小説
9 サハラに舞う羽根
(四枚の羽根)
1902 創元推理文庫113-2
角川文庫('03)
小学館 地球人ライブラリー('97)
冒険小説
10 The Truants 1904 -
11 モンブランの乙女
(改題 氷河を越えて)
1907 朋文堂 山岳文学選集('59)
日本公論社('33)
自らの体験を元にした
山岳小説
12 The Broken Road - インドを舞台にした小説
13 The Turnstile 1912 -
14 The Witness for the Defence 1913 - サスペンス
15 The Summons 1920 - スパイ風
16 The Winding Stair 1923 -
17 No Other Tiger
(比類なき虎)
1927 - スパイ・スリラー
ジュリアス・リカード登場
18 The Dean's Elbow 1930 -
19 The Three Gentlemen 1932 - 歴史小説風
20 Fire Over England 1936 - 冒険小説
21 The Drum 1937 -
22 Königsmark 1939 - 歴史小説
23 The Secret Fear 1940 -
24 Musk and Amber 1942 - 歴史小説

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Ensign Knightley and other stories 1901 -
1 The Coward -
2 The Crossed Gloves -
3 The Cruise of the "Willing Mind" -
4 The Deserter -
5 Ensign Knightley -
6 The Fifth Picture -
7 The Hatteras -
8 How Barrington Returned to Johannesburg -
9 The Keeper of the Bishop -
10 The Liberal Education -
11 The Man of Wheels -
12 Mu. Mitchellbourne's Last Escapade -
13 Princess Joceliande -
14 The Suttered House -
15 The Twenty-Kroner Story -
2 The Four Corners of the World
(世間の隅々)
1917 - アノーもの1編含む全13編
クイーンの定員59
1 The Clock
ある男と置時計
(或る男と置時計)
別冊宝石81('58)
新青年'38新春増刊
2 The Crystal Trench
水晶の棺
EQ'81.9
3 Green Paint -
4 North of the Tropic of Capricorn -
5 One of Them -
6 Raymond Byatt -
7 The House of Terror -
8 The Brown Book -
9 The Refuge -
10 Peiffer
パイファ
講談社文庫「世界スパイ小説傑作選2」('78)
11 The Ebony Box
黒い函
新青年'36夏季増刊
12 Under Bignor Hill - 戯曲
3 Dilemmas 1934 - 13編
1 The Strange Case of Joan Winterbourne -
2 The Wounded God -
3 The Chronometer -
4 Sixteen Bells -
5 The Reverend Bernard Simmons, B. D. -
6 A Flaw in the Organization -
7 The Law of Flight -
8 The Key -
9 Tasmanian Jim's Specialities -
10 The Italian
燻製の首
新青年'38夏期増刊
11 Magic -
12 The Duchess and Lady Torrent -
13 War Notes -

【戯曲】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Blanche de Malètroit 1894 - ロバート・L・スティーヴンスンの「マレトロア殿の扉の脚色
2 The Witness for the Defence 1913 -
3 Green Stockings 1914 -
4 At the Villa Rose 1928 - 長編「薔薇荘にて」の脚色
5 A Present from Margate 1934 - イアン・ヘンリーとの合作

【その他】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Royal Exchange 1920 - 保険会社の社史
2 Sir George Alexander and the St. James' Theatre 1935 - 劇壇史
3 The Life of Francis Drake 1941 - 偉人伝

【参考】「矢の家」(東京創元社 創元推理文庫)
「薔薇荘にて」(国書刊行会 世界探偵小説全集)
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