探偵 神津恭介
(Kyosuke Kamizu)

　日本を代表する本格推理小説家の一人である高木彬光の生み出した「神津の前に神津なく、神津の後に神津なし」と言われるほどの天才探偵。
　 それと同時に大変な美男子でもあるのですが、本人は女性嫌いのようで、結婚歴はありません。

　栃木県宇都宮市の鳥類学者の父と女流歌人の母との間に生まれ、旧制一高を経て東大医学部へ進学し法医学を専攻。

　19歳の時にはすでに英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語、ギリシャ語、ラテン語の六ヶ国語をマスターし、また旧制一高時代に発表した整数論についての論文が評価されてドイツの学会から理学博士の称号を受けるなど、その天才ぶりは挙げれば枚挙にいとまがありません。

　第二次世界大戦では軍医として中国南方を転戦し、復員直後、26歳の時に起きた「刺青殺人事件」を見事に解決したのがきっかけとなって、以後警視庁の依頼を受けて事件捜査に協力するようになります。

　戦後は東大の法医学教室に戻って講師を務め、後に助教授に昇進。犯罪経済学というものを自ら提唱し、最小の努力で最大の収穫を求めるのが経済の原則であり、犯罪者もまた同じであって、複雑なトリックに浮き足立つことなく、冷静にその裏にある犯人の合理的な意思を見抜いていけば必ず解決の糸口は見つかるものであると力説します。

　趣味はピアノと将棋で、ピアノの腕前も当然のことながら超一流。ただ文学には無関心で、読むと眠くなってしまうという短所も持ち合わせています。

　初登場作の「刺青殺人事件」や「人形はなぜ殺される」など、物語の大半は警視庁捜査一課長の兄を持つワトソン役の松下研三を相棒に警視庁の依頼を受ける形で事件に当たります。
もっとも後期作品のいくつかではイギリスの女流作家ジョセフィン・テイの名作「時の娘」（1952）の影響を受けてか、病床の神津恭介が病院のベッドの中で古代史の謎について推理を展開する、いわゆる〈ベッド探偵〉という方式の作品もみられ、この形式の代表作「邪馬台国の秘密」では幻の国・邪馬台国の真の位置を鮮やかに、そして論理的に推理していきます。

　なお彼の初登場作品は高木彬光氏のデビュー作でもある「刺青殺人事件」ですが、探偵として最初に解決した事件は、まだ旧制一高時代に学園内で起きた「わが一高時代の犯罪」です。

　また山田風太郎氏との合作や連作長編、それに子供向けのジュヴナイル小説などにも登場し、こちらでも鋭い推理を見せてくれています。