心理的探偵法を駆使し、エルキュール・ポアロのモデルとされる探偵

FRA ガブリエル・アノー
(Monsieur Hanaud)

薔薇荘にて
「薔薇荘にて」
(1910年)
(国書刊行会)

 イギリスの作家A・E・W・メイスンが生み出した、フランス・パリ警視庁の警部にして、ミステリの女王アガサ・クリスティーの生んだ名探偵エルキュール・ポアロのモデルだとも言われている探偵です。

 黒髪に肩幅の広いがっしりとした体格の中年紳士で、丸顔で厚ぼったい瞼をしているため外見からは鋭そうなイメージはないのですが、実際は機知に富んだ抜け目のない性格の持ち主。そして大の愛煙家で、青い包みの真っ黒なシガレットをいつも吹かし、ワトスン役のリカードを手玉に取って楽しむ一方で、半面子供っぽい無邪気さも持ち合わせています。

 また容易に人に屈服しない威厳を湛え、人の意表を突くのが好きなあたりは、ポアロに似ているというのも頷けるキャラクター像です。

 彼の捜査方法はホームズと同じく物的証拠を元にした上で論理的に推理を組み立てていき、たちどころに事件を解決するというやり方ですが、とにかく捜査に口出しされるのが大嫌いで、なかなか真相を話してはくれず、周囲をイライラさせるという傾向があります。このあたりはエラリー・クイーンにも似ています。

矢の家
「矢の家」
(1924年)
(東京創元社)

 一方彼の助手を務めるワトソン役のリカードは、「矢の家」を除く全てのアノーものに登場しますが、こちらは好人物として周囲からも慕われる存在です。

 ちなみにアノー探偵は英語があまり得意ではなく、時々リカードに注意されることもあるのですが、このあたりの二人のやり取りを描いた著者メイスンの文章は優れた名文と評されているそうです。

 しかしこれらのやり取りを日本語に完全に訳すのは難しく、それが邦訳作品を読む際に若干残念な所ではあります。


■原作■

A・E・W・メイスン
(Alfred Edward Woodly Mason 英 1865-1948)


■人物ファイル■

職業
フランス、パリ警視庁警部
愛用品
青い包みの真っ黒なシガレット
苦手
英語
協力者
ワトソン役のジュリアス・リカード(「矢の家」を除く全作品に登場)
事件簿
6長編1短編に登場

■事件ファイル■

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 薔薇荘にて
(薔薇の別荘)
1910 国書刊行会 世界探偵小説全集1('95)
博文館 世界探偵小説全集15「フレッチャ集」('29)
博文館 探偵傑作叢書42('26)
2 矢の家 1924 創元推理文庫113-1
HPB120
角川文庫('65)
東都書房 世界推理小説大系8('62)
東京創元社 世界推理小説全集7('56)
柳香書院 世界探偵名作全集6('37)
3 オパールの囚人
(木乃伊の穴)
(奇怪なる仮面)
1928 日本公論社 英米探偵小説新傑作選集('40改題)('37)
世界名作刊行会('40)
4 The Sapphire 1933 - 第17章にのみ登場
5 They Wouldn't Be Chessmen 1935 -
6 The House in Lordship Lane
(ロードシップ・レインの家)
1946 -

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Four Corners of the World
(世間の隅々)
1917 - クイーンの定員59
全13編
1 セミラミス・ホテル事件
(仮面)
HPB251「名探偵登場2」('56)
新青年'35.10-11

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