実在の名知事がモデル

CHN ディー・レンチェ(ディー判事)
(狄仁傑(てき・じんけつ))
(Judge Dee)

中国黄金殺人事件
「中国黄金殺人事件」
(1959年)
(三省堂)

 オランダ人の外交官であったR・H・ファン・フーリックが書いたこのシリーズですが、ディー判事というのは実在の人物であり、そのためこのシリーズでは彼が活躍した唐の時代の中国が舞台となっています。

 作品の特徴としては、このシリーズの元になった〈公案小説〉と呼ばれる中国独自の探偵小説で形式とされている、名探偵である判事が1つの話の中で3つの事件を解決するというパターンが採用されています。

 そして3つの事件がお互いに影響しあって物語をより奥深いものにしていくという、J・J・マリックが創造し、現代の警察小説でみられる〈モジュラー型〉の小説を思わせるような重厚なつくりになっているのが特徴です。これに加えて欧米ミステリにみられるようなプロットを用い、両者を上手く融合させることに成功しています。

 またこのシリーズには主人公のディー判事をはじめとして、忠義心に溢れ、ディー判事を補佐するホン・リャンや、酒豪で拳法の達人である豪快な人物マー・ロンなど、魅力的なキャラクターたちが多く登場して話を盛り上げてくれます。

真珠の首飾り
「真珠の首飾り」
(1967年)
(早川書房)

 ディー判事は黒々とした立派な髭をもち、孔子を尊敬し、超自然的なことは信じない物事を合理的な考え方をする人物で、知事として赴任した先々で事件に遭遇してそれを解決していきます。

 前述の通り実在の人物であり、物語同様に各地の知事を歴任後、中国の歴史上で唯一の女帝である即天武后に仕えて御史大夫(法務大臣)にまでなった人物です。

 ディー判事シリーズは全部で14の長編と2つの中短編集が発表されていますが、フーリックは当初このシリーズは5作品のみを予定していたらしく、初期5作品が物語の大きな流れを作っています。

 以後も周囲の要請に応えて作品を発表しましたが、これらはみな初期5作品の合間に起こったお話であり、いわば番外編みたいなものです。
作品的に見ても初期のような重厚なつくりではなく、よりコンパクトにまとめられた感じがする内容になっています。


■原作■

R・H・ファン・フーリック
(Robert Hans van Gulik オランダ 1910-67)


■人物ファイル■

生没
630年~700年
特技
武道(剣術・棒術)
尊敬する人
孔子
協力者
ディー判事の家に仕えるホン・リャン老人(ホン警部)(洪亮)
酒豪で拳法の達人である豪快な人物マー・ロン(馬栄・馬隆)
名家の出身で少し惚れっぽいのがたまにキズ、マー・ロンの同輩チャオ・タイ(喬泰・晁泰)
手先が器用で詐欺・盗み・弁舌を得意とするタオ・ガン(陶幹)
事件簿
14長編2短編集

■事件ファイル■

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 中国迷路殺人事件
(沙蘭の迷路)
(中国迷宮殺人事件)
(迷路の殺人)
1956 ちくま文庫('95)
HPB1823
講談社文庫('81)
講談社
グーテンベルク21
時代順4
2 中国梵鐘殺人事件
(江南の鐘)
1958 三省堂('89)
HPB1816
グーテンベルク21
時代順3
3 中国黄金殺人事件
(東方の黄金)
(黄金の殺人)
1959 三省堂('89)
HPB1804
東都書房('65)
グーテンベルク21
時代順1
4 中国湖水殺人事件
(水底の妖)
1960 三省堂('89)
HPB1829
グーテンベルク21
時代順2
5 中国鉄釘殺人事件
(北雪の釘)
1961 三省堂('89)
HPB1793
グーテンベルク21
時代順5
6 雷鳴の夜 HPB1729 作者名はロバート・ファン・ヒューリック
7 ディー判事 四季屏風殺人事件
(螺鈿の四季)
1962 中公文庫('99)
HPB1832
8 白夫人の幻 1963 HPB1789 作者名はロバート・ファン・ヒューリック
9 紅楼の悪夢 1964 HPB1752 作者名はロバート・ファン・ヒューリック
10 柳園の壺 1965 HPB1774 作者名はロバート・ファン・ヒューリック
11 紫雲の怪 1966 HPB1809 作者名はロバート・ファン・ヒューリック
12 南海の金鈴 HPB1781 作者名はロバート・ファン・ヒューリック、最後の事件
13 真珠の首飾り 1967 HPB1698 作者名はロバート・ファン・ヒューリック
14 観月の宴 1968 HPB1744 作者名はロバート・ファン・ヒューリック

【番外】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Dee Goong An
(米 Celebrated Cases of Judge Dee)
(狄公案)
1947 - ディー判事登場の中国の公案小説の英訳、東京で自費出版
1976年改版

【中短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 寅申の刻
((いんしんのとき))
1965 HPB1844
1 通臂猿の朝
(つうひえん)
2 飛虎の夜
(ひこ)
2 五色の雲
(ディー判事は仕事中)
1967 HPB1763 作者名はロバート・ファン・ヒューリック
1 五色の雲 HMM'03.11
2 赤い紐 HMM'04.4
3 鶯鶯(おうおう)の恋人 HMM'03.11
4 青蛙(せいあ)
5 化生燈(けしょうとう) -
6 すりかえ -
7 西沙の柩
(皇帝の柩)
HMM'86.3
8 小宝(シャオパオ) HMM'03.11

【参考】「真珠の首飾り」(早川書房 ハヤカワポケットミステリ)
「ディー判事 四季屏風殺人事件」(中央公論社 中公文庫)
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