USA パトリシア・ハイスミス
(Patricia Highsmith)
〔別名 クレア・モーガン (Claire Morgan)〕

殺意の迷宮
「殺意の迷宮」
(1964年)
(東京創元社)

 人間心理を巧みに描くサスペンス小説を得意としたアメリカの女性推理小説家。

 アメリカ国籍ですが、ドイツ系の父親とスコットランド系の母親との間に生まれ、また自身の作品の人気もヨーロッパの方が高かったことから、その生涯の大半をヨーロッパで過ごしたといいます。人嫌いだったため表に出ることはほとんどなく、晩年はスイスの山中で2匹の猫と暮らしていたそうです。

 大学を卒業の後アルバイトをしながら執筆を続け、雑誌に発表した短編が「ティファニーで朝食を」で有名なトルーマン・カポーティの推薦を受けて評判となり、それがきっかけとなって1950年、長編「見知らぬ客」でデビューを果たします。

 そしてこの作品がアルフレッド・ヒッチコック監督で映画化される幸運に恵まれ、更に1955年に発表した長編「太陽がいっぱい(後『リプリー』と改題)」でフランス推理小説大賞を受賞。
この作品も1960年にルネ・クレマン監督、アラン・ドロン主演で映画化されて大ヒットを記録し、これによって犯罪小説の分野における人気を不動のものとしました。

プードルの身代金
「プードルの身代金」
(1972年)
(扶桑社)

 また作品における斬新さも目を見張るものがあり、「見知らぬ客」では交換殺人を扱っていますが、後にこの前例を知らずに自身の作品に用いたニコラス・ブレイクが彼女に釈明したというエピソードも残っており、また「愛しすぎた男」では1960年代から早くもストーカーを登場させています。

 フランスの合作コンビで評論家としても著名なボアロー&ナルスジャックからは登場人物の心理描写にかけてハイスミスの右にでる者はいないと評され、グレアム・グリーンをして〈不安の詩人〉と呼ばしめるなど、登場人物たちの追いつめられていく心理、いわれなき不安感を描いた密度の高いサスペンスは、読む者を引き付けて止まない魅力があります。

 日本においても1990年代の翻訳ラッシュで、扶桑社ミステリー(文庫)と河出文庫からほぼすべての著作が邦訳されています。


■作家ファイル■

出身地
アメリカ、テキサス州フォートワース
学歴
バーナード・カレッジ卒
生没
1921年1月19日~1995年2月4日(74歳、白血病で)
作家としての経歴
1950
大学卒業後アルバイトをしながら雑誌に短編小説の寄稿を続ける
そしてこの年「見知らぬ乗客」で長編デビューを果たし、アルフレッド・ヒッチコック監督で映画化される
1955
リプリーものの長編「太陽がいっぱい」でフランス推理小説大賞を受賞。1960年にルネ・クレマン監督、アラン・ドロン主演で映画化
1964
「殺意の迷宮」でイギリス推理作家協会(CWA)賞の外国作品賞を受賞
1999
「太陽がいっぱい」が「リプリー」の題名で2度目の映画化
シリーズ探偵
小悪党のトム・リプリー (Tom Ripley)
代表作
「見知らぬ客」
「太陽がいっぱい(リプリー)」「アメリカの友人」
「ふくろうの叫び」「プードルの身代金」
「殺意の迷宮」

■著作リスト■

1 トム・リプリー登場作品リスト

2 その他の作品

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 見知らぬ乗客 1950 角川文庫(改版)('98)
角川文庫('72)
デビュー長編、アルフレッド・ヒッチコックにより映画化
2 The Price of Salt
(英 Carol)
1952 - クレア・モーガン名義
レズビアン・ロマンス
3 妻を殺したかった男 1954 河出文庫('91)
4 水の墓碑銘 1957 河出文庫('91)
5 生者たちのゲーム 1958 扶桑社ミステリー0781
6 愛しすぎた男 1960 扶桑社ミステリー0527 ストーカーを題材にした作品
7 ふくろうの叫び 1962 河出文庫('91)
8 殺意の迷宮 1964 創元推理文庫224-3 CWA賞外国作品賞('64)
9 ガラスの独房 扶桑社ミステリー0536
10 殺人者の烙印
(慈悲の猶予)
1965 創元推理文庫224-2
早川書房('66)
11 ヴェネツィアで消えた男 1967 扶桑社ミステリー0548
12 変身の恐怖 1969 ちくま文庫('97)
筑摩書房 世界ロマン文庫('70)
13 プードルの身代金 1972 扶桑社ミステリー0543
講談社文庫('85)
14 イーディスの日記 1977 河出文庫(上下)('92)
15 扉の向こう側 1983 扶桑社ミステリー0215
16 孤独の街角 1986 扶桑社ミステリー0218
17 スモールgの夜 1995 扶桑社ミステリー0515 ハイスミスの遺作
ゲイを題材にした作品

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 11の物語 1970 早川文庫316-1
早川文庫ミステリアス・プレス27('90)
1 かたつむり観察者 1964 早川書房「ニュー・ミステリ」('95)
2 恋盗人
(待ち焦がれた男)
1969 扶桑社ミステリー「ミステリアス・エロティクス」('98)
HMM'69.11
3 すっぽん 1962 早川文庫「幻想と怪奇1」('75)
EQMM'63.2
4 モビールに艦隊が入港したとき 1970 HMM'74.1
5 クレイヴァリング教授の新発見
(かたつむり)
1967 新潮文庫「北村薫のミステリー館」('05)
早川文庫「幻想と怪奇2」('76)
HMM'73.8
6 愛の叫び
(復讐)
1968 HMM'89.8
HMM'73.4
7 アフトン夫人の優雅な生活 1962 HMM'73.2
8 ヒロイン 1945 HMM'66.6
9 もうひとつの橋 1964 EQMM'65.10  
10 野蛮人たち 1968 HMM'77.9
11 からっぽの巣箱
(からの小鳥小屋)
1969 HMM'73.12
2 女嫌いのための小品集 1977 河出文庫('93)
1 片手
2 陽気な原始人ウーナ
3 男たらし
4 女流作家
5 ダンサー
6 寝たきりの女
7 芸術家
8 中流の主婦
9 天下公認の娼婦、またの名は主婦  
10 出産狂
11 動く寝室用品
12 小公女
13 沈黙の義母
14 純潔主義者
15 犠牲者
16 福音伝道家
17 完全主義者
3 動物好きに捧げる殺人読本 1975 創元推理文庫224-1
1 コーラス・ガールのさよなら公演
2 駱駝の復讐
3 バブシーと老犬バロン
4 最大の獲物
(ミンのお手柄)
二見書房「気ままな猫の14物語」('91)
5 松露狩りシーズンの終わりに
(松露狩シーズンの終りに)
HMM'80.8
6 ヴェニスでいちばん勇敢な鼠
7 機関車馬
8 総決算の日
(精算)
HMM'75.1
9 ゴキブリ紳士の手記  
10 空巣狙いの猿
11 ハムスター対ウェブスター
12 鼬のハリー
13 山羊の遊覧車
4 風に吹かれて 1979 扶桑社ミステリー0263
1 頭のなかで小説を書いた男
(頭の中で小説を書いた男)
1974 HMM'91.11
2 ネットワーク 1976
3 早川文庫2-35「クイーンズ・コレクション1」('83)
HMM'76.8
4 一生背負っていくもの
5 風に吹かれて HMM'77.1
6 またあの夜明けがくる 1977 早川文庫「またあの夜明けがくる」('82)
HPB「現代イギリス・ミステリ傑作集2」('88)
HMM'81.6
7 ウッドロウ・ウィルソンのネクタイ
(大統領のネクタイ)
(チボール蝋人形館)
1972 光文社文庫「世界ベスト・ミステリー50選/下」('94)
EQ'92.1
HMM'72.6
8 島へ 1979
9 奇妙な自殺 1973 HMM'92.4  
10 ベビー・スプーン HMM'91.11
11 割れたガラス 1979
12 木を撃たないで 1977
5 黒い天使の目の前で 1981 扶桑社ミステリー0227
1 猫が引きずりこんだもの
(猫の獲物)
1979 講談社文庫「13の判決」('81)
2 仲間外れ 1981
3 かご編みの恐怖
4 黒い天使の目の前で
5 わたしはおまえの人生を軽蔑する
6 エンマC号の夢
7 うちにいる老人たち
8 ローマにいる時は
(ローマにて)
1978 早川文庫2-37「クイーンズ・コレクション2」('85)
EQ'79.1
9 どうにでもなれ! 1981  
10
11 黒い家
(ブラック・ハウス)
新潮社「ニュー・ゴシック」('92)
6 ゴルフコースの人魚たち 1985 扶桑社ミステリー0289
1 ゴルフコースの人魚たち
2 ボタン
3 事件の起きる場所
4 クリス最後のパーティ
5 カチコチ、クリスマスの時計
6 無からの銃声
7 狂気の詰め物 HMM'87.6
8 たぶん、次の人生で
9 僕には何もできない  
10 残酷なひと月
11 ロマンティック
7 世界の終わりの物語 1987 扶桑社('01)
1 奇妙な墓地
2 白鯨2あるいはミサイル・ホェール
3 ホウセンカ作戦あるいは“触れるべからず”
4 ナブチ、国連委員会を歓迎す
5 自由万歳!ホワイトハウスでピクニック
6 「翡翠の塔」始末記
7 「子宮貸します」対「強い正義」
8 見えない最期
9 ローマ教皇シクストゥス六世の赤い靴  
10 バック・ジョーンズ大統領の愛国心
8 Chillers 1990 - 全12編
1 しっぺ返し
(偕老同穴)
創元推理文庫169-3「ディナーで殺人を/上」('98)
HMM'73.3
2 The Thrill Seeker
スリルを求めて
(趣味はスリル)
洋販出版「ミステリ短編傑作集2」('68)
EQMM'61.2
9 The Selected Stories of Patricia Highsmith 2001 - 既収録作品からのアンソロジー
10 Nothing That Meets the Eye : The Uncollected Stories of Patricia Highsmith 2002 - これまで未収録の短編を収めたもの
1 Things Had Gone Badly
破局
EQ'80.7
11 回転する世界の静止点
―初期短篇集 1938-1949
河出書房新社('05)
1 素晴らしい朝
2 不確かな宝物
3 魔法の窓
4 ミス・ジャストと緑の体操服を着た少女たち
5 ドアの鍵が開いていて、いつもあなたを歓迎してくれる場所
6 広場にて
7 虚ろな神殿
8 カードの館
9 自動車  
10 回転する世界の静止点
11 スタイナク家のピアノ
12 とってもいい人
13 静かな夜
14 ルイーザを呼ぶベル
12 Posthumous short stories, Volume II 1952-1982
目には見えない何か
─中後期短篇集1952-1982
河出書房新社('05)
1 手持ちの鳥
2 死ぬときに聞こえてくる音楽
3 人間の最良の友
4 生まれながらの失敗者
5 危ない趣味
6 帰国者たち
7 目には見えない何か
8 怒りっぽい二羽の鳩
9 ゲームの行方  
10 フィルに似た娘
11 取引成立
12 ミセス・ブリンの困ったところ、世界の困ったところ
13 二本目の煙草

【邦訳短編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 A Family Decision
家族決定
早川文庫「ポメラニアン毒殺事件」('89)
2 The Perfect Alibi
完全なアリバイ
EQMM'63.4
3 The Gracious, Pleasant Life of Mrs. Afton
ミセス・アフトンの嘆き
EQMM'63.6
4 Camera Fiend
カメラ・マニア
HMM'67.5
5 The Hate Murder
憎悪の殺人
HMM'67.11
6 You Can't Depend on Anybody
だれもあてにできない
HMM'71.10
7 The Nature of the Thing
’もの’の魅力
HMM'80.4
8 The Blunderer
ドジを踏んだ男
EQ'92.11
9 Suspect
疑惑
HMM'95.6
10 Summer Doldrums
夏の凪
11 A Safety in Numbers
みんなで渡れば……

【児童書】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Miranda the Panda is on the Veranda 1958 - ドリス・サンダースとの共著

【自伝】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Beautiful Shadow:
A Life of Patricia Highsmith
2003 -

【エッセイ・評論その他】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Plotting and Writing Suspense Fiction 1966 - ノンフィクション
2 簡潔な肖像画 早川書房「レイモンド・チャンドラー読本」('77) エッセイ
3 猫コンプレックス HMM'85.5 エッセイ

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