マーティン・カンバーランド
(Marten Cumberland)
〔別名　ケヴィン・オハラ(Kevin O'Hara)〕

　イギリスの本格小説家で、ジャーナリストとしても活躍していた人物です。ロンドン株式仲買人組合員だった家庭に生まれ、高校を卒業の後18歳で家を飛び出し、最初は証券取引所の仕事に就きます。
　やがて無線通信士の資格を取得すると、第一次世界大戦を跨いで約６年間を海上勤務で過ごします。

　第一次大戦後はロンドンの通信社勤務を経て新聞社に入社。そこで〈ニュー・イラストレイテッド〉という週刊の新聞の副編集長に請われて短編を書き始めます。
また同じ頃ジョン・ハマートン卿の事業に参加し、「ハームスフォース百科事典」の編纂委員の一人としてその出版まで多大な貢献を果しています。

　その後サー・エドワード・ハルトン・プレスの文芸副編集長などを経て、1924年からはフリーランスの作家として活躍を始め、20年間主として雑誌に随筆や短編を発表しました。
また1922年と1936年には経済学書も出版しており、他にも「登攀」「男たちと妻」「信ずるや否や」などの戯曲の執筆、パリのブールヴァル劇の翻案、バレエの脚本「コーの黄金の鐘」の発表など各方面にわたって多彩な才能を発揮していた人物でもあります。

　1940年に発表した長編「誰かが死ぬことになる」からは、自身も11年間住んでいたパリの町を舞台にサチュルナン・ダックス警視の活躍する本格長編を多数発表。
　それ以後は妻の故郷でもあるアイルランドのダブリンに住んで、主にダックス警視ものの本格長編の執筆に励みました。

　このジョルジュ・シムノンのメグレ警視シリーズともよく比較される、フランス人の警察探偵ダックス警視を主人公としたシリーズは、カンバーランドの母国イギリスでも大好評を得ていて、今現在ではこのシリーズの本格推理作家としての知名度が最も高いようです。