ジョージェット・ヘイヤー
(Georgette Heyer)
〔別名　Stella Martin〕

　イギリスの女流小説家。1902年にロンドン郊外のウィンブルドンで生まれ、私生活についてはほとんど明らかにされていませんでしたが、23歳の時に鉱山技師と結婚し息子が誕生しているそうです。

　ジェイン・オースティンに強い影響を受けていたらしく、17歳の時に病気の弟を励ますために書き始めたという歴史冒険小説「The Black Moth」で1921年19歳の時に作家デビューを果たします。以降1974年に亡くなるまで50年以上にわたり恋愛・ロマンス小説から歴史小説、そして探偵・ミステリー小説に至るまで多くのジャンルの小説を書き続けました。

　全部で60の作品が刊行されていて、このうち56ある長編小説の大部分はロマンス・歴史小説であることからも分かるとおり恋愛・ロマンス小説の分野で非常に有名で、主に1810年代から30年代にかけてのイングランドのジョージ王の摂政時代を舞台にした作品が多く、「リージェンシー・ロマンス」と呼ばれるジャンルの原型を作った作家として今日においても根強い人気があるそうです。日本でも近年ハーレクイン文庫から「愛の陰影」「悪魔公爵の子」「素晴らしきソフィー」「令嬢ヴェネシア」の4作品が翻訳されています。

　一方ミステリーの分野ではハナサイド警視ものの4作品を中心に全部で12作品が発表されており、いわゆる黄金時代の作家に位置づけられミステリーの女王アガサ・クリスティーやドロシー・Ｌ・セイヤーズ、ナイオ・マーシュらとともに同時代を代表する女流ミステリー作家の重要な一人として位置づけられる作家です。

　強烈な個性を持ったキャラクターたちが繰り広げるユーモア色たっぷりのナンセンスなドタバタ喜劇を随所に織り交ぜながらも、巧みなプロットと意外性のある結末で現在でも十分に楽しめる作風で、日本でも近年になり代表作の一つである「紳士と月夜の晒し台」が邦訳されるなど再評価の機運が高まりつつある作家です。