少女向けミステリを代表する作家

USA キャロリン・キーン
(Carolyn Keene)

少女探偵ナンシー
「少女探偵ナンシー」
(1939年)
(金の星社)

 アメリカの小説家。カロリン・キーンとも表記。本国アメリカだけでなくイギリス、フランス、ドイツ、そして日本など全世界で紹介され、1930年の第1作発表以来8000万部以上を売り上げたと言われている少女ミステリーの草分け的存在〈少女探偵ナンシー・ドルー〉のシリーズで有名です。

 ちなみに”キャロリン・キーン”というのはペンネームですが、その由来に関しては実は少々複雑な経緯を辿っています。
 アメリカの作家で出版者でもあったエドワード・ストラッテメイヤー(1862-1930)は、1906年に〈ストラッテメイヤー・シンジケート〉という少年少女のための探偵小説を発表・出版する作家団体を設立し、ビクター・アップルトン、メイ・ホリス・バートン、フランクリン・W・ディクソン、ローラ・リー・ホープなど数多くのペンネームを用いて長らく少年少女向けの小説を発表してきた人物でした。

 そして1930年になると、今度は新たに少女向けの読み物として〈少女探偵ナンシー・ドルー〉のシリーズを発表することとなり、そのために用意されたのがこのキャロリン・キーンという筆名だったのです。

消えたプリマドンナ
「消えたプリマドンナ」
(1945年)
(読売新聞社)

 しかし肝心のエドワード・ストラッテメイヤーがその直後に亡くなってしまっため、事業は娘のハリエット・ストラッテメイヤー・アダムズ(1892-1982)に引き継がれ、以後事業の経営の傍ら自ら執筆もしたというハリエットと児童文学者のミルドレット・ベンソン(1896-2002)らを中心に、複数の作家たちの手によってこのナンシー・シリーズは書き継がれていくこととなったのです。

 そうしてスタートした〈少女探偵ナンシー・ドルー〉シリーズは1930年に第1作「古い柱時計の秘密」が発表されて以来、毎年1~2冊のペースで書かれ、まず1979年までに計56の作品が発表されました。

 その後1982年にハリエットが没すると、〈ストラッテメイヤー・シンジケート〉の経営権は、更に2年後の1984年に大手出版社のサイモン&シュスター社(Simon & Schuster Inc.)に買い取られますが、以後もナンシー・シリーズは書き続けられます。

 そして第1作からおよそ70年以上経った現在でも新作が続々と出版されていて、総計で170以上の作品が残されています。

白い顔 黒い手
「白い顔 黒い手」
(1936年)
(金の星社)

 またキャロリン・キーン名義ではナンシー・ドルーもの以外にもダナ姉妹を主人公に据えたシリーズが発表されていますが、こちらも1934年の「ランプの秘密」の発表以来、1968年までに30作品が書かれています。

 ちなみにキャロリン・キーンの所属する〈ストラッテメイヤー・シンジケート〉からは、フランクリン・W・ディクソンの名義で少年探偵のハーディー兄弟が活躍する〈ハーディー・ボーイズ〉シリーズも書かれいますが、こちらもナンシー・ドルーのシリーズ同様、1930年頃の初登場から70年以上も経った現在に至るまで作品が発表し続けられている長寿シリーズとなっています。

 ナンシー・シリーズの特徴は、ミステリーとしての構成の上手さはもちろんのこと、徐々に話が盛り上がっていき読み出したら止まらなくなるスリルとサスペンスの面白さにもあると言われています。

 もっともスリルがあるといっても残酷なシーンなどは全くなくて、上品でむしろユーモアな印象さえ感じさせてくれます。

宝石盗難事件
「宝石盗難事件」
(1941年)
(金の星社)

 またハリエット・S・アダムス女史は作品を書くときはいつも子供たちの意見を聞いて題材を選んでいたらしく、「子供こそ最大の批評家」と公言して止まなかったといいます。

 親が安心して子供に薦めることができるこのような作風と著者の作品に対する姿勢が、発表から70年以上経った今でも色褪せることなく、三世代に渡って読み継がれている秘訣なのかもしれません。

 弁護士の父親譲りの抜群の推理力と行動力、そして優しさと美しさを兼ね備えた金髪の美少女ナンシーの活躍は、今後も今と変わることなく続いていくことでしょう。


■作家ファイル■

本名
・エドワード・ストラッテメイヤー(Edward Stratemeyer)
 アメリカの作家で出版者。1906年に〈ストラッテメイヤー・シンジケート〉という少年少女のための探偵小説を発表・出版する作家団体を設立し、経営の傍ら自らも数多くのペンネームを用いて少年少女向けの小説を発表していました。
 1930年新たに少女探偵ナンシーのシリーズを開始しますが、直後に惜しくも死去。以後は娘ハリエットの手に経営が引き継がれました。
・ハリエット・ストラッテメイヤー・アダムズ(Harriet Stratemeyer Adams)
 エドワードの娘。アメリカ東部ニュージャージー州生まれ。ウエレスレー大学卒業後ラッセル・V・アダムズと結婚し四児をもうけます。父親の出版社の経営を手伝いながら育児にも活躍したキャリア・ウーマン。父親が亡くなると自ら会社経営をしながら執筆活動も行いました。
 1982年に亡くなりますが、同年アメリカ探偵作家クラブ(MWA)の特別賞を受賞しています
ミルドレッド・A・ワート・ベンソン(Mildred Wirt Benson)
 米児童文学者。アイオワ州生まれ。オハイオ州の新聞社で記者活動をする傍ら、児童文学を次々と発表します。ナンシー・ドルーものの執筆の中心的役割を果たしました。
出身地
アメリカ
生没
・エドワード・ストラッテメイヤー 1862年~1930年
・ハリエット・ストラッテメイヤー・アダムズ 1892~1982年
・ミルドレット・A・ワート・ベンソン 1896年~2002年5月28日(96歳)
作家としての経歴
1930
アメリカの〈ストラッテメイヤー・シンジケート〉よりキャロリン・キーン名義で少女探偵ナンシー・ドルーもの第1作「古い柱時計の秘密」が発表される
シリーズは以後1979年までに56長編が書かれる
同年、エドワード・ストラッテメイヤー没
1934
ダナ姉妹もの第1作「ランプの秘密」を発表
1982
ハリエット・ストラッテメイヤー・アダムスがアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞の特別賞を受賞
同年、ハリエット・S・アダムス没
1984
〈ストラッテメイヤー・シンジケート〉の経営権を大手出版社サイモン&シュスター社が買収。以後もナンシー・シリーズは続けられ、現在までに総計で170以上の作品が発表されている
シリーズ探偵
少女探偵ナンシー・ドルー (Nancy Drew)
ダナ姉妹 (The Dana Girls)
代表作
「古い柱時計の秘密」「少女探偵ナンシー」
「あらしの夜のできごと」「盗まれた楽譜」

■著作リスト■

1 少女探偵ナンシー・ドルー登場作品リスト

2 ダナ姉妹登場作品リスト

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 ランプの秘密 1934 金の星社 少女・世界推理名作選集6('62)
2 一本松の小屋 保育社 少年・少女探偵冒険全集22('58)
3 In the Shadow of the Tower
(塔の影で)
-
4 A Three Cornered Mystery 1935 -
5 The Secret at the Hermitage 1936 -
6 円をえがく足跡 1937 偕成社 世界探偵名作シリーズ2('69)
7 The Mystery of the Locked Room 1938 -
8 The Clue in the Cobweb 1939 -
9 The Secret at the Gatehouse 1940 -
10 宝石盗難事件 1941 金の星社 少女・世界推理名作選集20('64)
11 The Clue of the Rusty Key 1942 -
12 The Portrait in the Sand
(砂の肖像)
1943 -
13 The Secret of the Old Well
(古井戸の秘密)
1944 -
14 The Clue in the Ivy 1952 -
15 The Secret of the Jade Ring 1953 -
16 Mystery at the Crossroads -
17 The Ghost in the Gallery 1955 -
18 The Clue of the Black Flower 1956 -
19 The Winking Ruby Mystery 1957 -
20 The Secret of the Swiss Chalet 1958 -
21 The Haunted Lagoon 1959 -
22 The Mystery of the Bamboo Bird 1960 -
23 The Sierra Gold Mystery 1961 -
24 The Secret of Lost Lake 1962 -
25 The Mystery of the Stone Tiger 1963 -
26 The Riddle of the Frozen Fountain 1964 -
27 The Secret of the Silver Dolphin 1965 -
28 The Mystery of the Wax Queen 1966 -
29 The Secret of the Minstrel's Guitar 1967 -
30 The Phantom Surfer 1968 -

【参考】「少女探偵ナンシー」(金の星社 フォア文庫)
「ナンシーの活躍」(金の星社 フォア文庫)
「オルガンをひく亡霊」(読売新聞社 アメリカン・ジュニア・ミステリー・ブックス)
海外サイト「Nancy Drew」様
海外サイト「The Unofficial Nancy Drew Home Page」様
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