本格推理とサスペンスを融合させた男性名義の女流作家

UK アントニイ・ギルバート
(Anthony Gilbert)
〔別名 アン・メレディス (Anne Meredith)〕

薪小屋の秘密
「薪小屋の秘密」
(1942年)
(国書刊行会)

 イギリスの女流本格作家。もっとも現役として活躍していた当時はアントニイ・ギルバートが女流作家ということは明らかにされていなかったらしく、一部の間では男性作家だと思われていたこともあったそうです。

 俳優の父のもとに生まれ、幼い頃から作家を志していましたが、15歳で家庭事情のため学校の中退を余儀なくされ、タイピストとして働きはじめます。その後は赤十字、厚生省などに勤めながら、その傍らで小説の勉強にも励んでいたといいます。

 そして1925年、最初は”J・キルメニー・キース”という名前で作家デビューを果たしますが、周囲の評価はなぜか今ひとつ芳しくなかったといいます。

 そこで1927年、今度は”アントニー・ギルバート”という男性作家を思わせる名義を用いて長編「フレインの悲劇」を発表した所、今度は大好評を博し、その後はシリーズ探偵であるアーサー・クルック弁護士を主人公とする作品を中心に創作を続け、やがてアガサ・クリスティー、ナイオ・マーシュ、E・C・R・ロラックといった大物たちとともに、イギリスの大手出版社・コリンズ社の〈クライムクラブ叢書〉の看板作家として位置づけられる存在にまでなったのでした。

黒い死
「黒い死」
(1953年)
(早川書房)

 なお”アントニイ・ギルバート”という男性名義を使ったのは、その当時は女性が探偵小説を書くということ自体が一般的ではなかったため、男性名義で発表した方が女性名義で発表するよりも売り上げが伸びるであろうと考えたからと言われており、事実その通りになった訳ですから先見の明があったといえるでしょう。

 彼女の作品は、犯人・トリック当てなどの謎解き要素に、登場人物たちの克明な心理描写とサスペンスの要素が巧みに織り交ぜられていて、両者を上手く融合させることに成功しています。そのため「一度読み出すと続きが気になってやめられなくなる」という評価がなされることが多いようです。

 ミステリ関係ではアーサー・クルック弁護士のシリーズを中心に全部で69の長編といくつかの短編を発表しており、それ以外にアン・メレディス名義で発表した普通小説が20冊ほどあります。


■作家ファイル■

本名
ルーシー・ビアトリス・マレスン (Lucy Beatrice Malleson)
出身地
イギリス、ロンドン南部アッパーノーウッド
学歴
セントポールズ女学校中退
生没
1899年~1973年
作家としての経歴
1925
J・キルメニー・キース名義で「The Man Who Was London」を発表
1927
アントニイ・ギルバート名義での最初の長編「フレインの問題」を発表し、好評を博する。その後はコリンズ社の〈クライムクラブ叢書〉の看板作家として活躍
シリーズ探偵
アーサー・クルック弁護士 (Mr. Arthur Crook)
政治家探偵スコット・エジャートン (Scott Egerton)
パリ警察のムッシュ・デュピュイ
代表作
「専門家の殺人」「薪小屋の秘密」「死は三度ノックする」
「黒い死」「殺人の問題」

■著作リスト■

1 アーサー・クルック弁護士登場作品リスト

2 政治家探偵スコット・エジャートン登場作品リスト

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Tragedy at Freyne
(フレインの問題)
1927 - アントニー・ギルバート名義、最初の長編
2 The Murder of Mrs. Davenport 1928 -
3 The Mystery of the Open Window 1929 -
4 Death at Four Corners -
5 The Night of the Fog 1930 -
6 The Body on the Beam 1932 -
7 The Long Shadow -
8 The Musical Comedy Crime 1933 -
9 An Old Lady Dies 1934 -
10 The Man Who Wasn't There 1935 - ムッシュ・デュピュイとの共演

3 ムッシュ・デュピュイ登場作品リスト

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Man in Button Boots 1934 -
2 The Man Who Wasn't There 1935 - スコット・エジャートンとの共演
3 The Man Who Was Too Clerer 1936 -

4 その他の作品

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Man Who Was London 1925 - J・キルメニー・キース(J. Kilmeny Keith)名義
2 The Sword of Harequin 1927 -
3 The Case Against Andrew Fane 1931 -
4 Portrait of a Murderer 1933 - アン・メレディス名義
5 Death in Fancy Dress -
6 There's Always Tomorrow
(米 Home Is the Heart)
1941 - アン・メレディス名義

【リレー長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 弔花はご辞退 1953 早川文庫113-1「殺意の海辺」
HMM'85.5

【邦訳短編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 幸運の馬蹄
(幸運の蹄鉄)
1939 早川文庫149-1「敗者ばかりの日」('88)
EQMM'57.10
2 わたしの目の黒いうちは
(屍を越えて)
1951 創元推理文庫104-24「ミニ・ミステリ傑作選」('75)
EQMM'59.10
3 Remember Madame Clementine
マダム・クレメンタインを忘れない
1953 HMM'04.6
4 血が知らせる 1958 東京創元社「アメリカ探偵作家クラブ傑作選1」('61)
5 いたちごっこ 1965 光文社文庫「世界ベスト・ミステリー50選/下」('94)
EQ'91.11(84)
6 Cat Among the Pigeons
鳩の中の猫
1966 HMM'67.1
7 Sleep Is the Enemy
眠ってはいけない
HMM'73.1
8 The Quiet Man
静かな男
1969 HMM'69.10
9 Door to the Different World
別世界への扉
1970 HMM'72.2

【普通小説】

すべてアン・メレディス名義

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Coward 1934 -
2 The Gambler 1937 -
3 The Showman 1938 -
4 The Stranger 1939 -
5 The Adeventurer 1940 -
6 The Family Man 1942 -
7 Curtain, Mr. Greatheart 1943 -
8 The Beautiful Miss Burroughes 1945 -
9 The Rich Woman 1947 -
10 The Sisters 1948 -
11 The Draper of Edgecumbe
(米 The Unknown Path)
1950 -
12 A Fig for Virture 1951 -
13 Call Back Yesterday 1952 -
14 The Innocent Bride 1954 -
15 The Day of the Miracle 1955 -  
16 Impetuous Heart 1956 -  
17 Christine 1957 -
18 A Man in the Family 1959 -
19 The Wise Child 1960 -
20 Up Goes the Donkey 1962 -

【戯曲】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Mrs. Boot's Legacy 1946 - アン・メレディス名義

【自伝】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Three-a-Penny 1940 - アン・メレディス名義

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