棟居弘一良刑事
(Koichiro Munakata)

　人気ミステリー作家の森村誠一が生み出した警察官探偵。精悍な顔つきで年齢は30歳前後。1976年発表の氏の代表作として名高い「人間の証明」に警視庁麹町署の刑事として初登場し、その後1993年から警視庁捜査一課の刑事となり、以降シリーズ・キャラクターとして数多くの作品に登場するようになりました。

　母親は物心つく前に他に男を作って逃げてしまい、父親は若い娘を裸にしようとしていた占領軍のアメリカ兵を制止しようとして、自分の目の前で暴行を受けて命を落としてしまったという何とも言いようのない不幸な経験の持ち主で、心に深い傷を負い極度の絶望と人間不信の中で成長していきました。
　そんな彼が刑事になったのは、社会正義のためでも好奇心からでもなく復讐のため。父親を殺された怨念を犯人逮捕にぶつけることができるからだったのです。

　そのため事件解決への執念は並大抵のものではなく、ほんの少しの疑問点にも追及の手を緩めず熱心に捜査を進めていき、時には暴走しかかる事もありますが、そんな時に彼のブレーキ役となるのが先輩の横渡刑事。年代も考え方も全く異なりますが、そこはベテラン刑事らしく棟居を時に諫め、温かく見守っている頼もしい存在であり、抜群のコンビネーションで捜査を進めていきます。

　シリーズキャラクターとなった後の最初の作品「復讐」で棟居は本庁の捜査一課那須班の刑事となりますが、冒頭で横渡刑事が殉職。霊前で事件の解明と犯人への復讐を誓う所から物語はスタートします。

　また結婚して娘ができたものの、またしてもその妻と娘の２人が強盗に殺されてしまうという悲劇に見舞われて再び天涯孤独でいたのですが、ほどなく以前穂高連峰で知り合い、「情熱」で再会を果たした20代のＯＬの本宮桐子という交際相手ができます。そして棟居は事件捜査が行き詰まった時に彼女に会うと、不思議と事件を解決に導く重要な手がかりをつかむことができるようになります。

　棟居刑事が登場する作品といえば何といっても1976年発表の「人間の証明」が有名で、77年に角川書店から松田優作の主演で映画化されて一大ブームを巻き起こし、その後何度もドラマ化。近年では2004年に竹野内豊主演で連続テレビドラマとして放映されています。またそれ以外の作品もＴＢＳとテレビ朝日系列の２時間ドラマの枠で何作品かが放映され、佐藤浩市、中村雅俊、東山紀之といった俳優が棟居役を演じています。