過去の傷跡から脱却するために酒を断ち再生を目指す

USA 酔いどれ探偵 マット・スカダー
(Matt Scudder)

暗闇にひと突き
「暗闇にひと突き」
(1981年)
(早川書房)

 アメリカの推理小説家ローレンス・ブロックの生み出した私立探偵で、警察小説の巨匠でもあるエド・マクベインが主人公と同名義で書いたカート・キャノン・シリーズやジェイムズ・クラムリーのミロのシリーズなどと並び、酔いどれ探偵の代表格と評されるシリーズ・キャラクターの一人です。

 元々はニューヨーク市警に所属する腕利きの優秀な警察官でしたが、ある事件の捜査の際、強盗を逮捕するために撃った銃弾が跳ねて7歳の少女エストレリータ・リヴェラの目を直撃。少女は幼くして警察の事件捜査の犠牲となってしまいます。

 強盗は見事に逮捕されスカダー自身は警察からは表彰されたものの、寡黙で生真面目な性格であったため彼の罪の意識は消えることはなく、ほどなく刑事の職を辞し、妻子とも別れることになります。

 それ以後はマンハッタンの安ホテルを事務所兼住居として、口コミで訪れた客を相手に無免許で私立探偵を開業。依頼された事件を捜査する一方で、普段は酒浸りの毎日を過ごしています。

八百万の死にざま
「八百万の死にざま」
(1982年)
(早川書房)

 このスカダーものは、著者のブロック自身、当初は6作で終わらせる予定だったシリーズだそうですが、過去の傷跡から脱却するために酒を断ち再生を図ろうとする彼の心の葛藤と、事件を通して段々と成長していく彼の姿が読む者の心を捉え離さず、読者の熱烈な支持を受けてシリーズは存続。

 「八百万の死にざま」が映画化されるなど、〈泥棒バーニィ〉シリーズとともにブロックの人気シリーズとしてすっかり定着しています。


■原作■

ローレンス・ブロック
(Lawrence Block 米 1938- )


■人物ファイル■

職業
元々はニューヨーク市警に勤める刑事
現在は職を辞し、ニューヨークのマンハッタンの安ホテルを事務所兼住居とする無免許の私立探偵(のち「処刑宣告」で私立探偵の免許を取得)
住所
ニューヨーク8番街と9番街の間の西57丁目の通りに面したホテル住まい
他に眼について教会で時間を過ごすことが多い(静かに物事を考えたり、死んでいった人間に蝋燭を灯すため)
身長
ほぼ6フィート
風貌
地味なスーツにグレーのトップコートを着用
青白い顔によれよれのスーツ
風に飛ばされてもこれ以上形の崩れようのない帽子
好きなもの
酒(バーボンが好みだが酒であれば何でも)
行きつけの店は9番街の57丁目と58丁目の間にあるアームストロングの店
愛読書
ペイパーバック版の「聖書の生涯」
〈ニューズ〉〈タイムズ〉〈ポスト〉などの各紙新聞
家族
妻のアニタ(離婚してその後再婚)
二人の息子(弟の名前はミッキー)
老犬バンディ

■事件ファイル■

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 過去からの弔鐘 1976 二見文庫('87)
2 冬を怖れた女 二見文庫('87)
3 一ドル銀貨の遺言 1977 二見文庫('89)
4 暗闇にひと突き 1981 早川文庫146-2
HPB1453
5 八百万の死にざま 1982 早川文庫146-1
HPB1431
映画化
6 聖なる酒場の挽歌 1986 二見文庫('86)
7 慈悲深い死 1989 二見文庫('90)
8 墓場への切符 1990 二見文庫('95)
二見書房('91)
倒錯三部作1
9 倒錯の舞踏 1991 二見文庫('99)
二見書房('92)
倒錯三部作2
MWA賞最優秀長編賞('92)
10 獣たちの墓 1992 二見文庫('01)
二見書房('93)
倒錯三部作3
11 死者との誓い 1993 二見文庫('02)
二見書房('95)
PWA賞最優秀長編賞
12 死者の長い列 1994 二見文庫('02)
二見書房('95)
13 処刑宣告 1996 二見文庫('05)
二見書房('96)
14 皆殺し 1998 二見文庫('06)
二見書房('99)
15 Hope to Die
死への祈り
2001 二見文庫('06)
二見書房('02)
16 All the Flowers Are Dying
すべては死にゆく
2005 二見書房('06)
17 A Drop of the Hard Stuff
償いの報酬
2011 二見文庫('12)

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Night and the Music: the Matthew Scudder stories 2011
1 窓から外へ 1977 早川文庫146-4「おかしなことを聞くね ローレンス・ブロック傑作集1
HMM'89.8
HMM'80.6
2 バッグ・レディの死 早川文庫146-6「バランスが肝心 ローレンス・ブロック傑作集2
HMM'79.12
3 夜明けの光の中に 1984 早川文庫146-7「夜明けの光の中に ローレンス・ブロック傑作集3
光文社文庫「頭痛と悪夢」
早川文庫80-16「新エドガー賞全集 アメリカ探偵作家クラブ傑作選14」('92)
早川文庫121-1「探偵は眠らない/上」('86)
HMM'85.10
MWA賞最優秀短編賞('85)
4 バットマンを救え 1990 早川文庫146-7「夜明けの光の中に ローレンス・ブロック傑作集3
HMM'91.2
5 慈悲深い死の天使 1993 早川文庫146-7「夜明けの光の中に ローレンス・ブロック傑作集3
光文社文庫「頭痛と悪夢」
早川書房「ニュー・ミステリ」('95)
6 夜と音楽と 1999 早川文庫362-7 現代短篇の名手たち7「やさしい小さな手」
HMM'04.10
「The Collected Mystery Stories」('99)より
7 Looking for David
ダヴィデをさがして
(ダヴィデを探して)
1997 光文社文庫「頭痛と悪夢」
扶桑社ミステリー「双生児」('00)
EQ'98.5
「The Collected Mystery Stories」('99)より
8 レッツ・ゲット・ロスト 2000 早川文庫362-7 現代短篇の名手たち7「やさしい小さな手」
光文社文庫「探偵稼業はやめられない」('03)
ジャーロ'01夏
「Enough Rope」('02)より
9 おかしな考えを抱くとき 2002 早川文庫362-7 現代短篇の名手たち7「やさしい小さな手」
HMM'03.1
「Enough Rope」('02)より
10 Mick Ballou Looks at the Blank Screen 2011 -
11 One Last Night at Grogans -

【日本で独自編纂の短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 やさしい小さな手 2009 早川文庫362-7 現代短篇の名手たち7 全14編
1 ブッチャーとのデート HMM'89.9
2 レッツ・ゲット・ロスト 2000 光文社文庫「探偵稼業はやめられない」('03)
ジャーロ'01夏
短編集5に収録
3 おかしな考えを抱くとき 2002 HMM'03.1 短編集5に収録
4 夜と音楽と 1999 HMM'04.10 短編集4に収録

【参考】「一ドル銀貨の遺言」(二見書房 二見文庫)
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