出版 |
早川書房
ハヤカワポケットミステリ
1026 |
断崖に立っていた女は、突然前につんのめった。すぐそばにいたトラヴィス・マッギーを跳ね飛ばし、頭を後方に仰け反らせたまま、岩肌の間にまっ逆様に落ちていった。転がり落ちるのを止めようと両手をあげる様子も見せず、ずるずると滑っていった……。
女の体が転がり落ちる寸前、実に不快な音が聞こえた。柔らかい腐った切株に手斧を打ち下ろした時のような、鈍い衝撃音。女は身動きもせず、音も立てずにぐったりと横たわった。次の瞬間、遠くの方で、強力なライフルの銃声が風もない静かな岩山にこだました。マッギーは全速力で50フィート離れた松林目がけて突っ走った。倒れるようにして一本のよじれた根っこにつかまり、身を潜めた。一息つくと、次第に女の死に様が、マッギーの脳裡をかすめた─滑らかな肩のほぼ2インチ下の所で、背骨の上の方に向かってパックリ開いた生々しい穴が……
マッギーがその女と会ったのは、その日の正午。しかもその殺しは、もめごと処理屋として名声を伝え聞いた彼女に強引に頼まれ、話を聞こうと山頂にある彼女の山小屋に出かけた矢先のことだった……
マッギーに、またしても降りかかった怖るべき災難!マッギー、不可解な殺人に激しく挑戦! |