酔いどれ探偵の先駆け的存在

USA 酔いどれ探偵カート・キャノン
(Curt Cannon)

酔いどれ探偵街を行く
「酔いどれ探偵街を行く」
(1958年)
(早川書房)

 87分署シリーズでも有名なアメリカの作家エド・マクベインがカート・キャノン名義で発表した作品に登場する酔いどれの名探偵。

 元々はニューヨークでも指折りの私立探偵でしたが、自分の妻のトニと部下の男が密通している現場に遭遇し、男を拳銃で殴り殺そうとしてしまったために警察に私立探偵の認可証を取り上げられてしまいます。

 そしてそれ以後はすべてに絶望し、住む家も金を稼ぐ仕事もなくホームレス同様の状態で、ニューヨークの裏町バウアリの片隅で酒に溺れる生活を送るようになってしまいます。

 しかしそんな彼のもとにも様々な悩みを持った依頼人がちゃんと訪れるのです。それは昔の友人だったり貧しい人たちだったりするのですが、彼らにとっては認可証は問題ではなく、相変わらず彼が頼りになる探偵だと分かっているからでした。

 最初は彼もその依頼を断るのですが他に当てもなく泣きついてくる人を見捨てることもできず、最後はまた探偵の本能を呼び覚まされて事件を追いかけることになるのです。

よみがえる拳銃
「よみがえる拳銃」
(1958年)
(早川書房)

 ちなみにこのシリーズの8つの短編は最初はエヴァン・ハンター名義で〈マンハント〉誌上にて発表されましたが、当時主人公の名前は”マット・コーデル (Matt Cordell)”だったらしく、6編が一つの単行本としてまとめられた時に作者名とともに”カート・キャノン”と改められたのだそうです。

 日本でもこのシリーズは「おれか? おれはなにもかも失った私立探偵くずれの男だ。失うことの出来るものは、もう命しか残っていない」という、翻訳を担当した都筑道夫氏の作った有名なキャッチコピーが毎回冒頭に置かれて紹介され、大変な人気を集めました。

 〈87分署〉シリーズが好調だったためかこのカート・キャノンのシリーズは以後長編が1つ発表されただけで終わってしまいましたが、日本ではこの酔いどれ探偵の人気を受けて都筑道夫氏の手で贋作作品が6つ書かれていて、一冊の本として読むことができます。


■原作■

カート・キャノン
(Curt Cannon 米 1926-2005)


■人物ファイル■

職業
ニューヨークの元私立探偵
住居
なし(運よく小銭のある時は一泊25セントの安い宿に泊まるが、そうでなければ公園のベンチで一夜を明かす)
好きなもの
酒(金がない時は血を売って買う)
事件簿
1短編集(8短編)と1長編に登場

■事件ファイル■

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 酔いどれ探偵街を行く 1958 早川文庫14-3(新装版)
早川文庫14-1
HPB794
連作短編集
1 幽霊は死なず
(白い肌に誘われるな!)
1953 マンハント'58.8
2 死人には夢がない
(うそつきの金髪)
マンハント'58.9
3 フレディはそこにいた マンハント'58.10
4 善人と死人と
(チャイナ・タウンで逢った女)
マンハント'58.11
5 死んでいるおれは誰だろう
(弾丸と女はもうたくさん)
マンハント'59.1
6 おれもサンタクロースだぜ 1954 マンハント'58.12
7 抱かれにきた女 マンハント'59.2 日本版のみ収録
8 街には拳固の雨がふる
(街には拳固の雨が降る)
マンハント'59.3
9 背中の女 1960 新潮文庫「酔いどれ探偵」('84)
桃源社 都筑道夫コレクション5「酔いどれひとり街を行く」('75)
マンハント'60.4
都筑道夫によるパスティーシュ
ポケミス版のみ収録

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 よみがえる拳銃 1958 早川文庫14-2
HPB983

【パロディ・パスティーシュ】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 酔いどれ探偵
(酔いどれひとり街を行く)
1975 新潮文庫('84)
桃源社 都筑道夫コレクション5
酔いどれ探偵クォート・ギャロン
都筑道夫によるパスティーシュ
1 背中の女 1960 HPB794「酔いどれ探偵街を行く」
マンハント'60.4
2 おれの葬式 マンハント'60.5
3 気のきかないキューピッド マンハント'60.6
4 黒い扇の踊り子 マンハント'60.7
5 女神に抱かれて死ね マンハント'60.8
6 ニューヨークの日本人 マンハント'60.9

【参考】「酔いどれ探偵街を行く」(早川書房 ハヤカワミステリ文庫)
「酔いどれ探偵」(新潮社 新潮文庫)
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