金蠅 タイトル

金蠅

原題

The Case of the Gilded Fly (米 Obsequies at Oxford)

発表年

1944

著者/訳者/解説

エドマンド・クリスピン/加納秀夫/都筑道夫

カバーデザイン

上泉秀俊

ページ数

232(巻末「クリスピンおぼえがき」)
作品レビュー

あらすじ(解説文)

出版

早川書房
ハヤカワポケットミステリ
386
オクスフォード大学、セント・クリストファ学寮の第二中庭の南側全部を占めるジャーヴァス・フェンの部屋では、妻のドリーをはじめ、フェン、新聞記者ナイジェル、警察署長サー・リチャード・フリーマン、こんどオクスフォード・レパトリー劇場で上演する芝居『詩作狂』の作者、劇作家ロバート・ウォーナーの五人が、フェンと同じくオクスフォードで教鞭をとる老教授ウィルクスの語る幽霊話に耳を傾けていた。処も同じこの学寮で、昔虐殺された男の亡霊が、夜な夜な人を脅かすというのだ。話は佳境に入っていた。「何しろ、問題は人を殺すということで、それがどんな殺し方になるかということは別だ。殺人は殺人を呼ぶものなんだ。だから、いつか、何らかの方法で─」
そう言いかけた時だった。轟然一発の銃声が夜の空気を震わせたのだ─。そして駈け付けた人々の前に、折からこの学寮に遊びに来ていた女優イズー・ハスケルが、額の真中に黒い穴をあけられ、無慚な死体となって転がっていた……。
本書『金蠅』はイギリスで最も人気のある探偵作家の一人エドマンド・クリスピンが、自ら、大御所カー、才媛アリンガムの推理に優るとも劣らないと自信の程を示した作品である。素人探偵、オクスフォード大学教授ジャーヴァス・フェンの洒脱な推理!

初版

1957年

重版

1998年再版(1000円)

入手

amazon

ISBN

4-15-000386-6

【感想】★★★

 クリスピンがディクスン・カーの「曲った蝶番」を読んで感銘を受け、大学在学中に2週間で書上げたという本作品ですが、著者自身も自信のほどをみせているだけのことはあって、本格推理小説としてかなり良く出来た作品だと思いました。
 注目すべきはメイントリックと犯行動機ですが、トリックについては驚きというよりは成る程と唸るような面白いトリックだと思います。

 ただ残念なのはこのメイントリックを成功させるためにはこの作品中ではとある条件が必要なのですが、科学捜査が進歩した今現在ではその条件が達成できないということです(このトリックを使っても警察がある物を精密に捜査すればバレバレでしょう) そしてそれを念頭に置いてこの小説を読むとするならばあのトリックは想像すらできないと思えることですね。実際私も想像もつきませんでした。発想が非常に面白かっただけに、残念な所です。

 お話としては残念なことですが、この作品全体に流れている被害者は死んで当然と言わんばかりの関係者の言い方、考え方が共感できませんでした。被害者は確かに人をイライラさせる人間であったかもしれませんが、殺されるほどのことをしていたとは思えませんし、それだけにあの言われようは逆に可哀相に思えて仕方がなかったです。
 更に言えば探偵役のフェン教授が第一の事件で犯人が分かっていながら、被害者が上記のような人間であったがために、それを放置していたという部分もしっくり来ないものがありました。
 確かに事件をむやみやたらに暴き出すことは周りに悲しい思いをさせるだけかもしれませんんが、ほとんどの殺人事件というものは得てしてそのようなものだと思います。また警察官ではない以上犯人を捕まえることは義務ではないとも思いますが、今回の事件は犯行動機から考えても捕まえないのはむしろおかしいですし、結局そのことが後々第二の悲劇をもたらしているのですからお粗末と言わざるを得ませんでした。

 全体としてはオックスフォードの学生生活がとても生き生きと描写されていましたし、本格推理のメインであるトリックと犯行動機・犯人あてが面白かったので評価は高くつけたい所ですが、事件に対するフェン教授の姿勢がどうも納得がいかなかったことと、トリックが今現在ではできないであろうということで少し辛めの評価になりました。
 本作品中の至る所に散りばめられているクリスピンの教養高い文学的知識の薀蓄については好みの問題で、うんざりする人もあれば、気にならない方もいると思います。私はそれ程気にはなりませんでした。

 あとこの作品は長い間絶版状態の後1998年に重版されましたが、翻訳権の関係から今後ポケミスで復刊されることはないということをある方から伺いました。だとすると未入手の方は早めに手に入れておいたほうがいいのではないかと思います。今現在(2003.6.18)でも入手はかなり大変ですが、これからもっと大変になるでしょう。