【感想】★★★
ソーンダイク博士の第1長編ですが、これは期待以上に面白かった作品です。1907年当時ということで、伏線が巧妙に張られてそれを読者が見破るといったような楽しみはないですし、登場人物も非常に少なく結末も何となく予想はできるのですが、犯人あての興味は薄くても顕微鏡などを使った丹念なソーンダイク博士の捜査活動が興味深く描かれていて、読者は成る程と関心しながら語り手のポルトンと一緒になって楽しく読み進めて行くことができると思います。
またおよそ百年前に書かれたこともあり今の科学技術の進歩を考えると合わない部分も当然あるのでしょうが、それを全く感じさせないソーンダイク博士の説得力ある推理は本当に大したものだと思います。これはフリーマンが友人とともに自ら実際に実験をしてみた結果を小説の中で反映させていることが要因なのでしょう。
こういったリアリズム型の小説にありがちな人間が描けていないということもなくて、ソーンダイク博士と親友のジャービス医師が捜査活動の中で互いにやり合うシーンは面白かったですし、ソーンダイク博士を慕う助手のポルトンが法廷場面で見せた行為は微笑ましいものがありました。 両者とも短編では人物像があまり描かれていないことが多いので、本作で人間像がはっきりと見えてそれだけでも楽しめました。
それから物語を通して一貫して滑稽な人物として描かれているホーンビイ夫人が、ともすれば退屈になりがちな中盤から終盤にかけて楽しい雰囲気を醸し出してくれています。
またジャービス医師の依頼人に対するほのかな恋心の行方も気になりました。このあたりはE・C・ベントリーの「トレント最後の事件」やアガサ・クリスティーの「ゴルフ場殺人事件」の先駆けともいえるでしょう。ただ謎解き以外には興味がなく、こういったロマンス風の作風がお気に召さないとうい方も当然いらっしゃるでしょう。そしてそういう方にとっては、この作品は若干退屈にならざるを得ないかもしれません。
ミステリとしては内容的には中編に近いものでしょうし、結末にもとりたてて意外性もないため本格志向の強い方は不満が残るかなとは思いますが、話の盛り上げ方が上手く、また登場するキャラクターがとても魅力的であるため、最後まで退屈せずに読み進めていけると思います。もっとリアリズム小説のような堅い話を想像していたので、いい意味で期待を裏切る楽しい作品でした。
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