出版 |
早川書房
ハヤカワポケットミステリ
345 |
─それは、色の浅黒い、ピチピチした感じの女だった。年は二十三、四だろう。肩まで垂らした漆黒の髪、青いつぶらな瞳、大きくふっくらした赤い唇、そして人なつこい微笑─ケンの胸はたかぶっていた。まだ妻のアンに会う前の自分に一足飛びに戻ったようだ。一夜の浮気の相手に、こんな女を見つかられたなんて、まったく運がいい。女は気立てもよく、優しかった。「もし誰のものでもなかったら、あたしがんばって、あなたを自分のものにするわ」と女は言った。 「その誰かがいるんだよ、実は」とケンが答えると、「いい人はみんなそうなのね」女は肩をすぼめてほほえむのだった……。 几帳面で真面目な銀行員のケンが、悪友の誘いに負け、コールガールのアパートへ訪ねて行く気になったのは、妻のアンが、母親の病気で五週間も実家に帰っていたからだった。─だが、連れだって女のアパートへ戻ってきたケンの胸は、激しい後悔の念で疼いた。そのとき、突然、部屋の灯りが消えた。そして、忍びやかに部屋を横切る足音が……着替えのため寝室に入っていた女の異様な気配に、ケンがドアを引きあけて見ると、女はベッドの上で、乳房の谷間から血をしたたらせていたのだ! 絶妙のストーリー・テリング、息もつかせぬスピードで展開する傑作サスペンス! |