出版 |
早川書房
ハヤカワポケットミステリ
1187 |
男は自室の血だまりのド真中に、虫の息のまま放りだされていた。切り裂かれて腹が納屋の戸口のようにパックリを開き、ナイフが柄まで胸骨の間に突き刺さっていた。だが、彼は命をもちこたえ、小さな机から電話を引きずり落すと、薄れる意識に鞭うってマイク・ハマーの番号をまわした。そしていま、残り数秒の命を燃やしてマイクを見あげ、必死に何ごとか訴えようとしていた。 「マイク……さっぱり、わからねえ」それが、マイクの幼な友だちであり、滅法人のいい人生の敗北者リッピー・サリヴァンの最後の言葉だった。
人から恨みを買うこともなかったリッピーがなぜあのような酷たらしい殺され方をしたのか? いったい何に巻き込まれたのか? ギャングの大立物の暗殺事件に血道をあげ、この殺しを屑同然にしか扱おうとしない警察にかわって、マイクは怒りをこめて復讐を誓った。
が、マイクが捜査を開始した頃、ニューヨークのある病院に担ぎ込まれた身元不明の死体から怖るべき事件が進行しつつあることが判明した。死体は化学細菌戦用の細菌に犯されていた。そしてこの細菌をつめこんだ同じカプセルが、政権交代前のソ連の秘密工作によって十数年前全米にばらまかれ、いま内蔵された時限装置がいっせいに働こうとしていたのだ!─刻一刻と迫る皆殺しの時に孤独の戦いをくりひろげるマイク・ハマー! |