USA フランク・グルーバー
(Frank Gruber)
〔別名 スティーヴン・エイカー〕
〔別名 チャールズ・K・ボストン〕
〔別名 ジョン・K・ヴェダー〕

笑うきつね
「笑うきつね」
(1940年)
(早川書房)

 アメリカの小説家であり脚本家。貧しい農家に生まれ9歳の時にはもう新聞の売り子としてシカゴで働いていたらしく、そのような生い立ちから貧しい青年が苦難の末に大富豪になるというホレイショ・アルジャー・ジュニアの立身出世物語に夢中になり、作家を志すようになったといいます。

 高校卒業後に軍役を経験し、その後様々な職を転々とした後1930年代に入ると小説を書き始めますが、大変な多作家であり、1932年から1934年の間だけで174もの短編を発表しています。この点ハードボイルドの始祖ダシール・ハメットやE・S・ガードナーも活躍した〈ブラック・マスク〉誌などのパルプ・マガジンを中心に活動し、いくつもの筆名を用いて要請があればどんなジャンルの短編でも書いたらしく、数年が経った頃にはパルプ・マガジン作家として軌道に乗り始めていました。

 この時期の彼の代表作は〈人間探偵百科事典〉と呼ばれるオリヴァー・クエイドというキャラクターの登場するシリーズで、彼は百科事典のセールスマンですが、自らの商品を四回読破し、そのすべてを記憶していて、どんな質問をされてもすぐさま答える事ができるという異常なまでの記憶力を持っています。

 そして毎回とんでもない事件に巻き込まれては、持ち前の記憶力と頭の回転の速さで自らのピンチを脱出して見せます。

 その後も順調に作家として人気を集め、多い時期には年収が1万ドルを超えたともいいます。そしてこの成功の秘訣は自伝「パルプ・ジャングル」でも語られていて、派手なヒーロー、テーマ、仇役、背景、殺人方法、動機、手がかり、トリック、アクション、クライマックス、情緒の11項目を挙げ、どれもありきたりのものであってはならないと説いています(「ミステリ小説11の要素」)

 1940年代に入ると短編中心の苛酷なパルプ・マガジン作家生活を卒業し、「笑うきつね」や「コルト拳銃の謎(海軍拳銃)」などに登場するジョニー・フレッチャーとサム・クラッグの凸凹コンビの活躍する長編を書き始めますが、これが評判を呼び、彼の代表的かつ最も息の長いシリーズとして以後計14長編が発表されています。

 その他にも様々な主人公を用いてウエスタン小説などをはじめ幅広いジャンルで多くの作品を発表しています。

コルト拳銃の謎
「コルト拳銃の謎」
(1941年)
(東京創元社)
遺書と銀鉱
「遺書と銀鉱」
(1941年)
(六興行出版部)

 また1942年からは脚本家としてハリウッドで活躍し、「ディミトリオスの棺」「ブルドッグ・ドラモンド」や自作「フレンチ・キイ」などの脚本も手がけています。

 グルーバーの作風については、別冊宝石97号での中原弓彦氏の次のような記述がもっともその特徴を現しています。

 「プロットの展開や謎の設定は本格探偵小説的であるが、その語り口はハードボイルドのような荒っぽいテンポの速いもので、作品によってはユーモアの度合いは非常に強く、また得意分野である西部史の知識も混ざっているため、彼の小説を読むことは『西部劇とドタバタ喜劇と探偵映画を3本一緒に楽しむようなもの』でひどく愉快にさせられてしまいます。」(別冊宝石97号「フランク・グルーバー篇」)


■作家ファイル■

出身地
アメリカ、ミネソタ州エルマー
生没
1904年〜1969年
作家としての経歴
1934
この頃からニューヨークに渡って、〈ブラック・マスク〉誌などのパルプ・マガジンに多くの短編を発表するようになる
1940
フレッチャー&クラッグの活躍する第1作長編「フランス鍵の秘密」を発表。以後は長編中心に作品を発表し続ける
1967
自伝の「パルプ・ジャングル(The Pulp Jundle)」を発表。ミステリーの分野での成功の秘訣11項目を著す
この2年後の1969年に没するまで55冊(うちミステリ34編)の長編を含め全部で63冊の著書がある
シリーズ探偵
ジョニー・フレッチャー&サム・C・クラッグ (Johnny Fletcher & Sam Cragg)
〈人間百科事典〉オリヴァー・クエイド (Oliver Quade)(全15編)
私立探偵サイモン・ラッシュ&エディ・スローカム (Simon Lash & Eddie Slocum)
私立探偵オティス・ビーグル&ジョオ・ピール (Otis Beagle & Joe Peel)
代表作
「笑うきつね」
「コルト拳銃の謎(海軍拳銃)」

【グルーバーが説く「ミステリ小説の11要素」】

  1 カラフルな主人公(ホームズが典型)
  2 テーマ(物語の特殊な舞台。『走れ盗人』では、錠前師の世界)
  3 悪漢(名悪漢でたくさんの手下を持ち、探偵に対しては圧倒的優勢を誇る)
  4 背景(カラフルで異常な背景)
  5 殺人方法(異常さを強調。殺人舞台の異常性)
  6 動機(憎悪と貪欲しかない動機をできるだけ異常なものに仕立て上げる)
  7 手がかり(必要)
  8 トリック(異常性)
  9 アクション(物語のスピードと動き)
 10 クライマックス(力強さ)
 11 感情(主人公が個人的理由から事件に関与し、単なる義務感で事件を解決してはいけない)

【参考】「グルーバー 殺しの名曲5連弾」(講談社 講談社文庫)


■著作リスト■

1 ジョニー・フレッチャー&サム・C・クラッグ登場作品リスト

2 〈人間百科事典〉オリヴァー・クエイド登場作品リスト

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考 発表
The Man From Missouri 1956 - 全4編
1 Rain, the Killer
殺人者は雨が好き
1937 小説推理'73.1 6
2 Death at the Main 1936 - 2
Brass Knuckles
(ブラス・ナックル)
1966 -
The Life and Time of the Pulp Story
パルプ小説の生命と時代
HMM'67.12-'68.2 長い序文
1 Ask Me Another
つぎの質問をどうぞ
(お次の質問は?)
1937 EQMM'65.3
宝石'57.5
5
2 ドッグ・ショー殺人事件 1938 講談社文庫「グルーバー 殺しの名曲5連弾」('80)
番町書房 イフ・ノベルズ「探偵 人間百科事典」('77)
9
3 漫画映画殺人事件 1939 講談社文庫「グルーバー 殺しの名曲5連弾」('80)
番町書房 イフ・ノベルズ「探偵 人間百科事典」('77)
13
4 Oliver Quade at the Races
クエイド、馬券を買う
1939 HMM'69.9 14
5 不時着 1938 講談社文庫「グルーバー 殺しの名曲5連弾」('80)
番町書房 イフ・ノベルズ「探偵 人間百科事典」('77)
11
6 Death Sits Down
死のストライキ
(ストライキ殺人事件)
1938 国書刊行会 ブラック・マスクの世界3「ブラック・マスクの栄光」('86)
HMM'85.11
10
7 ソング・ライターの死 1940 講談社文庫「ユーモアミステリ傑作選」('80)
EQ'78.11
15
8 州博覧会殺人事件 1939 講談社文庫「グルーバー 殺しの名曲5連弾」('80)
番町書房 イフ・ノベルズ「探偵 人間百科事典」('77)
12

【日本で独自編纂の短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
グルーバー 殺しの名曲5連弾
(探偵 人間百科事典)
1977 講談社文庫('80)
番町書房 イフ・ノベルズ
全5編

【未収録短編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考 発表
Brass Knuckles 1936 - デビュー作 1
Murder on the Midway 1937 - 3
Picture of Death 1937 - 4
Trailer Town 1937 - 7
鷲の巣荘殺人事件
(鷲の断崖)
1937 講談社文庫「グルーバー 殺しの名曲5連弾」('80)
番町書房 イフ・ノベルズ「探偵 人間百科事典」('77)
HMM'67.2
8

3 私立探偵サイモン・ラッシュ&エディ・スローカム登場作品リスト

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
Simon Lash, Private Detective 1941 -
バッファロー・ボックス 1942 HPB673
Murder '97
(The Long Murder of Murder)
1948 -

4 私立探偵オティス・ビーグル&ジョオ・ピール登場作品リスト

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
遺書と銀鉱 1941 六興出版部 六興推理小説選書108('57)
Beagle Scented Murder
(Market for Murder)
1946 -
The Lonesome Badger
(Mood for Murder)
1954 -

5 その他の邦訳作品

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
The Last Doorbell 1941 - John K. Vedder名義
フランク・サージェント
The Yellow OverCoat 1942 - Stephen Acer名義
ジョン・デヴリン
The Fourth Letter 1947 - トム・ハガティ
走れ、盗人
(錠前なら俺にまかせろ)
(真昼の逃亡者)
1948 HPB689
別冊宝石97('60)
学習研究社 中学二年コース'63.7第3付録 中学生ワールド文庫
トミー・ダンサー
Johnny Bengeance 1954 - ジョン・ウェルダー
Twenty Plus Two
(二十と二年)
1961 - トム・オールダー
Brothers of Silence 1962 - チャールズ・タンクレッド
Bridge of Sand 1963 - アーメド・フォス
The Greek Affair 1964 - ジョン・アイヴズ
10 Little Hercules 1965 - ハーヴェー・フレーサー
11 愚なる裏切り 1966 講談社 ウイークエンド・ブックス('68) トミー・ロールズ
ハードボイルド
12 This Gun is Still 1967 - ジム・フォレスター
13 The Twilight Man - ジム・ランド
14 The Cold Gap 1968 - サージェント
15 The Dawn Riders - サム・パーカー
16 The Etruscan Bull 1969 - トム・ローガン
17 The Curly Wolf - ジム・コーベット
18 The Spanish Prisoner 1972 -
19 Wanted -

【西部小説】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
Pease Marshal 1939 - ジョン・ボニウェル
Outlaw
(Rebel Road)
叛逆者の道
1941 新鋭社 ダイヤモンドブックス('58) ジム・チャップマン
Gunfight 1942 - ジム・パーカー
Fighting Man 1948 - ジム・ダンサー
Broken Lance 1949 - ジョン・リーチ
Smoky Road
(The Lone Gunhawk)
- ジム・ロールズ
六番目の男 1953 HPB(ポケットブック)522 ジョン・スレーター
映画化('56)
Quantrell's Raiders 1954 - ドニー・フレッチャー
Bitter Sage - ウェス・タンクレッド
10 Bugles West - トム・ローガン
11 The Highway Man 1955 - サム・ボナー
12 Buffalo Grass
(Big Land)
1956 - チャド・モーガン
13 Lonesome River 1957 - トム・ウィバー
14 Town Tamer - トム・ロサー
15 The Marshal 1958 - タッド・ジェイ
16 The Bushwhackers 1959 - フィル・ボッカー

【中・短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
The Man From Missouri 1956 - クエイドもの2編他
全4編
1 The Man From Missouri -
2 Outlaw -
Tales of Wells Fargo 1958 - 西部小説の短編集

【邦訳短編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
Candid Witness
写真は嘘をつかないが
1937 EQMM'59.8
Honesty Is My Motto
正直こそわがモットー
EQMM'61.5
The Marshal of Broken Lance
硝煙の町
1938 早川文庫 NV40「駅馬車」('73)
EQMM'61.9
The Ring and the Finger
国書刊行会 ブラック・マスクの世界5「ブラック・マスク異色作品集」('86)
The Gold Cup
黄金のカップ
1940 別冊宝石75('58)
The Thirteen Floor
十三階の女
1949 岩崎書店 恐怖と怪奇名作集10「けむりのお化け」('99)
HSS(ハヤカワサスペンスシリーズ)4001('63)
Cat and Mouse
ねずみと猫
EQMM'58.5
You Can't Crack a Modern Safe
おれをクビにできない
EQMM'60.5
If I Can Ever Forget
過去のある花嫁
HMM'66.2
10 兇銃ものがたり 宝石'55.4(10-6)

【自伝】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
The Pulp Jungle 1967 -

【参考】「グルーバー 殺しの名曲5連弾」(講談社 講談社文庫)
「コルト拳銃の謎」(東京創元社 創元推理文庫)