処女作から2年連続CWA賞ゴールド・ダガー賞の実力派本格作家

UK ピーター・ディキンスン
(Peter Dickinson)

ガラス箱の蟻
「ガラス箱の蟻」
(1968年)
(早川書房)

 ピーター・ディッキンソンとも表記。イギリスの本格推理小説家で、ミステリーの分野だけでなく児童文学やSF・ファンタジーの分野でも活躍しています。

 アフリカのザンビアに生まれ、父親の仕事の関係もあって幼年時代は世界各地で過ごすことになりますが、7歳の時にはイギリスに帰国。
その後イートン校を経てケンブリッジ大学のキングズ・カレッジを卒業し、卒業後はロンドンで〈パンチ〉誌の編集スタッフとして働きます。

 そしてその編集者としての仕事の傍らにミステリーを書き始め、1968年、ジェイムズ・ピブル警視を主人公とする処女作「ガラス箱の蟻」でミステリー作家としてデビュー。本来持っていた実力に運も伴ってその年のイギリス推理作家協会(CWA)賞のゴールド・ダガー賞を見事に獲得します。

 その翌年の1969年には〈パンチ〉誌を退社し専業作家となりますが、同年に早くも第2長編で第1作にも登場したピブル警視の登場する「英雄の誇り」を発表。この作品で2年連続のゴールド・ダガー賞を受賞するという快挙を成し遂げました。

キングとジョーカー
「キングとジョーカー」
(1976年)
(サンリオ)

 ディキンスン作品の特徴は、とにかく奇抜で異様な舞台設定と、本格推理の定石であるフェアな手がかりと論理的解決の両者が上手く融合した不思議な面白さにあるといわれています。

 またミステリだけでなく他のジャンルでもその才能を発揮。SF作家としてはルイーズ王女の活躍する「キングとジョーカー」のようなSFの世界を題材にしたSFとミステリーの両者に跨る作品もあって、これらの作品はSF世界からも高い評価を得ています。

 そしてファンタジーや児童文学ではミステリ以上に高い評価と大変な人気を集めており、「青い鷹」でイギリスの児童文学賞であるガーディアン賞を1977年に、そして同じく「Tulku」と「聖書伝説物語―楽園追放から黄金の都陥落まで」で児童文学賞であるカーネギー賞を1979年と1980年に連続受賞しています。

 その他にも〈大変動〉シリーズ(Changes)という、機械文明の発達した時代に現れた魔法使いの魔法によって機械嫌いにされてしまったイギリス人たちが機械を破壊し機械のない暮らしを求め始めるという、ディキンスンならではといえる風変わりな設定が興味深いシリーズもあります。

過去にもどされた国
「過去にもどされた国」
(1968年)
(大日本図書)

 日本でも評価は非常に高いようで、邦訳も全盛期の頃にはピブル警視ものを初めとして数冊が刊行されましたが、その後絶版になってしまったものが非常に多く、現在はほとんどの作品が入手困難本として高値で取引され、マニアの間で争奪戦になっている状態です。


■作家ファイル■

出身地
イギリス(北ローデシア(現・ザンビア)のリヴィングストン生まれ)
7歳の時イギリスに戻る
学歴
イートン校、ケンブリッジ大学キングズ・カレッジ卒
生没
1927年12月16日~
作家としての経歴
1968
第1作「ガラス箱の蟻」でデビューし、同年イギリス推理作家協会(CWA)賞のゴールド・ダガー賞を受賞
1969
第2作「英雄の誇り」でCWAゴールド・ダガー賞を2年連続で受賞、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞の長編賞にもノミネートされる
1977
ジュヴナイル長編「青い鷹」でガーディアン賞を受賞
1980
ジュヴナイル長編「Tulku(タルク)」でカーネギー賞を受賞
1981
ジュヴナイル長編「聖書伝説物語―楽園追放から黄金の都陥落まで」でカーネギー賞を2年連続で受賞
シリーズ探偵
ジェイムズ・ピブル警視 (Superintendent James Pibble)
ルイーズ王女 (Princess Louise)
代表作
【ピブル警視】
「ガラス箱の蟻」「英雄の誇り」
【ルイーズ王女】
「キングとジョーカー」
【児童書】
「青い鷹」「Tulku(タルク)」「聖書伝説物語―楽園追放から黄金の都陥落まで」

■関連リンク■

1 ピーター・ディキンスン公式サイト


■著作リスト■

1 ジェイムズ・ピブル警視登場作品リスト

2 ルイーズ王女登場作品リスト

3 〈大変動〉シリーズ (The Changes Trilogy) 作品リスト

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 過去にもどされた国 1968 大日本図書 大日本ジュニアブックス・フィクション('72) ジュヴナイルSF
ピーター・ディッキンソン
2 Heartsease
(心のやすらぎ)
1969 - ジュヴナイルSF
3 悪魔の子どもたち 1970 大日本図書 大日本ジュニアブックス・フィクション('77) ジュヴナイルSF
ピーター・ディッキンソン

【オムニバス】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Changes 1975 - 長編1~3を集めたもの

4 その他の作品

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 緑色遺伝子 1973 サンリオSF文庫('79)
2 毒の神託 1974 原書房 ヴィンテージ・ミステリー・シリーズ('98)
3 Walking Dead
生ける屍
1977 サンリオSF文庫('81)
4 A Summer in the Twenties 1981 -
5 The Last House-Party 1982 -
6 Hindsight 1983 -
7 Death of a Unicorn 1984 -
8 Tefuga 1986 -
9 Play Dead 1991 -
10 The Yellow Room Conspiracy 1994 -
11 Some Deaths Before Dying 1999 -

【児童書】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Emma Tupper's Diary 1971 -
2 The Dancing Bear 1972 -
3 The Gift 1973 -
4 Chance, Luck, and Destiny 1975 - ノンフィクションも含めた短編集
ボストン・グローブ・ホーンブック賞
5 青い鷹 1976 偕成社 現代の翻訳文学 22('82) ガーディアン賞('77)
ピーター=ディキンソン
紀元前2000年のエジプトが舞台のファンタジー
6 Annerton Pit 1977 -
7 The Flight of Dragons 1979 - 同題アニメ映画の原作
8 Tulku
(タルク)
- ウィットブレッド児童書賞
カーネギー賞('80)
9 聖書伝説物語―楽園追放から黄金の都陥落まで 1980 原書房('03) カーネギー賞('81)
ドイツ・カトリック司教賞
10 The Seventh Raven 1981 -
11 Healer 1983 -
12 Perfect Gallows 1988 -
13 エヴァが目ざめるとき 徳間書店('94) SF小説
ピーター・ディッキンソン
14 魔術師マーリンの夢
─アーサー王物語伝説
原書房('00) ケルト幻想物語
15 AK 1990 - ウィットブレッド児童書賞
16 A Bone from a Dry Sea 1992 -
17 Shadow of a Hero 1993 -
18 The Lion Tamer's Daughter 1997 - 他に「The Spring」「Touch and Go」「Checkers」の全4編
19 血族の物語 1998 ポプラ社 ポプラ・ウイング・ブックス 16・17(上下)('03) 冒険ファンタジー
ピーター・ディッキンソン
オムニバス本刊行('03)
Mana、Noli、Po、Suthの各々が活躍する4冊のシリーズ
20 Touch and Go 1999 - 18から3編収録「The Spring」「Touch and Go」「Checkers」
21 ザ・ロープメイカー
─伝説を継ぐ者
2001 ポプラ社 ポプラ・ウイング・ブックス 33('06)
22 Elementals: Water
(米 Water: Tales of Elemental Spirits)
2002 - ロビン・マッキンリー(Robin McKinley)との共著
Mermaid Song (PD)
The Sea King’s Son (RM)
Sea Serpent (PD)
The Water Horse (RM)
Kraken (PD)
A Pool in the Desert (RM)
23 The Tears of the Salamander 2003 - 22からのスピン・オフ
24 The Gift Boat
(米 Inside Grandad)
2004 -
25 Angel Isle 2006 - 21の続編

【絵本】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Iron Lion 1973 -
2 Hepzibah 1978 -
3 Giant Cold 1983 -
4 A Box of Nothing 1985 -
5 Mole Hole 1987 -
6 時計ネズミの謎 1993 評論社 評論社の児童図書館・文学の部屋('98) ピーター・ディッキンソン
挿絵エマ・チチェスター・クラーク
7 Chuck and Danielle 1996 -

【その他の作品】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Mandog 1972 - TVシリーズのシナリオ
ルイス・ランプラフ(Lois Lamplugh)との合作
2 Marigold: The Music of Billy Mayerl 1999 -

【邦訳短編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 猫殺しの下手人は? 1979 講談社文庫「13の判決」('81)
2 Flight 1985 -

【編書】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Presto! 1975 - ジュヴナイル
2 Hundreds and Hundreds 1984 - ジュヴナイル

【エッセイ・評論その他】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Lure of the Reichenbach
ライヘンバッハの滝の魅力
集英社「ミステリー雑学読本」('82) エッセイ
2 Murder in the Manor
マナー・ハウスの殺人
1991 HMM'94.3 エッセイ
3 A Defense of Rubbish 2002 - エッセイ
4 The Weir 2007 - 詩集

【参考】「キングとジョーカー」(扶桑社 扶桑社ミステリー)
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