出版 |
早川書房
ハヤカワポケットミステリ
1330 |
アンデューズの頭上で生贄の牡牛が最後のうめき声をあげた。一滴、二滴、真赤なしずくが彼の肩をうつ。つづいて無数のしずくが、天井の穴をとおして降り注いだ。血にまみれながら、アンデューズの心に猛々しい喜悦がほとばしる─ぼくは力を持った! 太陽神ミトラの洗礼を受けた今は、教団の救い主となるのだ……!
銀行の出納係アンデューズの平日は単調そのものだ。将来の見込みもなく、毎日、決して自分のものにはならない札束を数える仕事、だが、日曜日だけは別だった。ビュキュジアン教授が率いる、ミトラ崇拝の教団アシュラムに彼の活躍の場があった。経営能力のない教授は彼に会計をすべて任せていた。教団員の寄付で膨れあがりつつあるアシュラム。一銭にもならなくても、充分に腕をふるえる仕事だ。
しかし今、教団は危機に瀕していた。数ヵ月前、アンデューズの運転する車が起こした事故が原因だった。今のところ、危機が迫っているのに気がついているのは彼ひとりだ。だが、事故を目撃した四人の教団員が事故の真相を洩らせば、教団の存続は危うい。目撃者の口をふさぐのは自分の役割だ。アンデューズはひそかに、四人の男女に死刑を宣告したが……。
異常な心に芽ばえた連続殺人計画。フランス・ミステリ界に君臨する合作コンビの秀作サスペンス。 |