「チップス先生 さようなら」で有名な世界的文豪

UK ジェームズ・ヒルトン
(James Hilton)
〔別名 グレン・トレヴァー (Glen Trevor)〕

学校の殺人
「学校の殺人」
(1932年)
(東京創元社)

 イギリス出身の作家で、後にアメリカに帰化した世界的に有名な文豪です。

 代表作は「チップス先生、さようなら」や「失われた地平線」、「鎧なき騎士」などの普通小説ですが、ミステリーも彼がまだ作家として名声を博する前に長編を1編と短編2編だけですが残しています。

 ランカーシャー州の父親が教師を勤める家に生まれ、ケンブリッジ大学を卒業していますが、その在学中から小説や評論を書くことに親しんでいたらしく、17歳のときに処女作「キャサリーン自身(Catherine Herself)」を書き上げ、1920年に出版。もっとも出版されはしたものの評判にはなることはありませんでした。

 大学を卒業の後も文筆業で生計を立てていこうと決心して新聞や雑誌に寄稿しますが、やはり評判にはならず10年くらいは苦しい生活を余儀なくされます。

 そんな中で1932年、収入を得るためにグレン・トレヴァーという変名を用いて書いたのが、ミステリーの長編「学校の殺人」でした。

 そしてその翌年の1933年になるとようやく転機が訪れ、作家として陽の目を見るようになりはじめます。

 まず彼の最初の出世作となったのが、1933年に発表した長編小説「失われた地平線」でした。
  この作品はアジアの奥地にある神秘の国チベットの理想郷〈シャングリ・ラ〉を舞台にしたユートピア小説で、この〈シャングリ・ラ〉という言葉が当時の社交界や一般社会の流行語となるほどの圧倒的支持を受け、同年イギリスの有名な文学賞の一つであるホーソンデン賞を受賞しています。

 そして同じ1933年に発表された長編「鎧なき騎士」も、その暖かいヒューマニズムと魅力的な人物描写でたちまち大評判となります。

 さらにその翌年の1934年、ヒルトンは非国教派の有名な週刊紙〈ブリティッシ・ウィークリー〉の依頼を受けて同紙のクリスマス号の特別附録として掲載される中編小説の執筆を依頼されます。

鎧なき騎士
「鎧なき騎士」
(1933年)
(東京創元社)
失われた地平線
「失われた地平線」
(1933年)
(新潮社)

 しかしながら、当初はなかなかアイデアもプロットも思い浮かばずに途方に暮れていたといいます。

 ところがある日のこと、そのモヤモヤした気分を振り払おうと冷たい朝の空気の中自転車で駆けていた所、突然一つのアイデアが閃き、作品の全体像までが瞬時に頭の中を駆け巡ったといいます。

 そしてすぐさま家に戻ったヒルトンは、夢中になって4日間をかけてそのアイデアを作品として形に変えたのでした。

 こうして発表されたのが名作として名高い「チップス先生、さようなら」で、この作品はアメリカの〈アトランティック・マンスリー〉誌が取り上げたのをきっかけに全米で話題となり、本国イギリスを上回る支持を集めます。

 そしてそれをきっかけに、彼のそれまでの作品も次々とアメリカの出版社から再刊・映画化され、ヒルトンは作家としての地位を不動のものとしていったのです。

 その後ヒルトンは、本国イギリス以上に彼の作品を高く評価してくれたアメリカに家族を引き連れて移り住み、後に帰化しています。

 そしてハリウッドで自作品の映画化にも携わる一方で、「私たちは孤独ではない」(1937)、「心の旅路」(1941)、「朝の旅路」(1951)などの質の高い作品を次々と世に送り出しています。

チップス先生 さようなら
「チップス先生 さようなら」
(1934年)
(新潮社)

■作家ファイル■

出身地
イギリス、ランカシャー州
学歴
ケンブリッジ大学卒
生没
1900年9月9日〜1954年12月21日(肝臓ガンで、54歳)
作家としての経歴
1920
処女作「キャサリーン自身(Catherine Herself)」を発表
1932
「学校の殺人」を発表。長編ミステリはこれのみで、他に2編の短編を発表している。
1933
「失われた地平線」を発表。翌年のホーソンデン賞を受賞し一躍人気作家に
シリーズ探偵
なし
代表作
「学校の殺人」
「失われた地平線」
「チップス先生さようなら」「心の旅路」

■著作リスト■

1 推理小説・ミステリー

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
学校の殺人
(学校殺人事件)
(学園の名探偵)
1932 創元文庫117-1
HPB170
東京創元社 世界推理小説全集66('58)
金の星社 少女・世界推理名作選集11(ジュヴナイル)
あかね書房 少年少女世界推理文学全集10('64)
発表当初はグレン・トレヴァー(Glen Trevor)名義

【短編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
The Mallet
木槌
(饒舌の報酬)
1929 EQMM'57.8
EQ'89.1
朝日ソノラマ文庫 海外シリーズ20「神の遺書」('85)
The Perfect Plan
100パーセント・プラン
1946 EQMM'56.11
蝙蝠の王 1953 EQMM'57.12
月光 新青年'38.6 原題不明

2 普通小説

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
Catherine Herself
(キャサリーン自身)
1920 -
Storm Passage 1922 -
The Passionate Year 1924 -
And Now Good-bye
(では、さようなら)
1931 -
Contango
(米 Ill Wind)
(コンタンゴ)
1932 -
Rage in Heaven
(天の怒り)
-
鎧なき騎士 1933 創元文庫509-1
東京創元社 世界大ロマン全集61
ちくま世界ロマン文庫9('78)
小山書店 世界大衆小説全集3('55)
酣燈社('49)
映画化('37)
失われた地平線 新潮文庫('59)
角川文庫('73)
ユートピア小説
ホーソンデン賞('34)
映画化('37、'73)
チップス先生 さようなら 1934 新潮文庫('56)
新月社
映画化('69)
10 The Silver Flame
(Three Loves Had Margaret)
1936 -
11 私たちは孤独ではない 1937 早川文庫 NV17('79)
HPB(ポケットブック)507('54)
12 To You, Mr. Chips
(チップス先生へ)
1938 -
13 心の旅路
(ランダム・ハーヴェスト)
1941 角川文庫('74)
三笠書房('75)
朝日新聞社('49)
映画化('42)
14 The Story of Dr. Wassell
(ワッセル博士の話)
1944 -
15 So Well Remembered
(忘られぬあの日)
1945 -
16 Nothing So Strange 1947 -
17 朝の旅路 1951 東京創元社 世界大ロマン全集36・37(上下)('58)
18 めぐり来る時は再び 1953 新潮社 現代世界文学全集38('56)

【参考】「めぐり来る時は再び」(新潮社 現代世界文学全集38)
「学校の殺人」(東京創元社 創元推理文庫)
「鎧なき騎士」(東京創元社 創元推理文庫)
「私たちは孤独ではない」(早川書房 ハヤカワ文庫NV)