【感想〉★★★★
世界的文豪として名高いジェームズ・ヒルトンがまだその名声を博する前の不遇の時期に書いた唯一の推理長編ですが、やはり後に世界的に有名になったのも頷けるような文章運びの上手さとテンポの良さで、どんどんと読み進めていくことができました。この時代のイギリスの学生生活(キャンパスライフ)も垣間見ることができて、その意味でも興味深い作品です。
トリック的に何か大きなものがある訳でもないですし、犯人の意外性とかどんでん返しとか、本格ミステリとして大がかりな仕掛けというのはありません。
しかしとにかく物語の構成が上手くプロットがしっかりとよく練られ、登場人物も巧みに整理されていますので非常に読み易くかつ楽しむことができました。またラストの犯人を暴くシーンもサスペンスフルに描かれ、スリルがあってとても読み応えがありました。
少ない登場人物の中で上手にプロットを組み立てて読者を上手く騙すという作業は、登場人物を安易に多くして読者をいたずらに混乱させ、犯人当てを難しくすることに比べれば遥かに大変なことであり、そのように少ない登場人物でもって読者を惑わすことが出来るヒルトンの技量にはただただ脱帽しました。大仕掛けはないものの読み易く非常にバランスの取れた作品であり、シリーズ探偵が登場しないのは残念ではあるのですが、この作品はミステリの基本書として推薦するのにふさわしい傑作だと私は思います。
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