【感想】★★★★★
クリスティーの代表作として名高いこの作品ですが、とにかくよく練られた構成が多い女史の作品の中でもとりわけよく練られたお話だと感じました。
伏線も非常に細かく張られていますし、犯人がABCの順に殺人を繰り返していく意図というのが何なのかということについてずっと考えさせられながら物語は進んでいきます。
そして怪しい行動をとる人物が同時進行で描かれてクリスティーの意図するところがさっぱりわからないまま9割くらいが進んでいきますが、最後の最後になってその意図というのが分かった時はなるほどと思わず唸ってしまいました。
結構複雑な事件ですから、一度読んだだけでは見えてこない部分もありますが、読み返してみるとあんなところに伏線が…ということがたくさんあります。女史の作品の中でもとりわけ本格度の高い作品だと思います。
また冒頭のヘイスティングズが髪の薄いのを気にするポアロとジャップ警部とのやり取りや、最初の事件の時に八百屋でヘイスティングズ大尉がイチゴを買った時の話がかなり受けました(笑)
最初からこうやって笑わせてくれましたし、やはりABCというものにいろいろな意味を持たせて読者の関心をずっと最初から引く構成になっていたので、序盤でだれなかったのも良かったと思います。クリスティーの作品では序盤に眠くなることはほとんどないですね(笑)
(以下ネタバレあり)
私は実はカスト氏が最初はそのまま犯人なのではないかと思っていました(苦笑) それはまん中あたりで映画館で見知らぬ青年と事件について語るシーンがあったと思うのですが、そこでカスト氏が「疫病も眠り病も飢餓も癌も
気に入らない」とこう発言しているのを読んだからです。
それでよく考えてみると眠り病はフレイザーという青年が陥っていましたし、癌はもちろんクラーク卿の妻がかかっていましたし、飢餓というと最初の犠牲者の夫がまあいってみればそんな感じで貧しかったですし、何か関連があるのかなとずっと思いつつ読んでいました(笑)
物語中盤から犯人っぽい人物を大胆にも登場させるという面白い作りになっていますが、そのあたりで上手くだまされた読者も多いのではないでしょうか。
ただカスト氏が犯人に利用されているということに気付いてからは、すぐ犯人がフランクリン・クラークだと分かりました。動機でピンと来ました。ただそれについてあんなに細かく伏線が張ってあったというのは驚きでした。
カスト氏にもっとアリバイがない状態をきちんと作っておくべきだったのではないかなど、杜撰かなとも思える犯人のミスもあるのですが、ポアロに手紙を送りつけた理由など非常によく考えられた作品だと思います。
それと被害者に関する共通点を探すというのが、犯人というか女史が仕掛けたトリックだというのがこの事件の一番のすごい所だと思います。ストッキングがそうだったのですが、これが真犯人が偽の犯人であるカスト氏を逮捕させるためにポアロないし読者に対して仕組んだ罠だったというのが非常に面白かったですね。
普通は共通点を探し出して真犯人を当てさせる訳ですから、なぜあんなに早い段階で共通点であるストッキングの話が出てきたのか最初は疑問だったのですが、それが最後に明らかにされた時は、真犯人が分かった事よりも驚いたというか関心させられました。
また何も関係ない人が犠牲になった部分が納得いかないという感じも受けますし、本当に許しがたい犯人ですが、その分最後にポアロが犯人に自殺をさせずに楽にはさせなかったところで私は充分バランスが取れていたと思います。これで自殺されていたらかなりお粗末でしたが(笑)、このあたりもクリスティーはよく考えていると思います。
すごくよく練られたお話ということはクリスティーの作品ではごく当たり前のことが多いですが(苦笑)、それにしてもこの作品はその中でも群を抜いた細やかな作りがなされている作品だと思います。複雑ですから何度でも読み返してそのすごさを再認識して頂きたいですね。
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