マギル卿最後の旅 タイトル

マギル卿最後の旅

原題

Sir John Magill's Last Journey

発表年

1930

著者/訳者/解説

F・W・クロフツ/橋本福夫/橋本福夫

カバーデザイン

板橋利男

ページ数

386
作品レビュー

あらすじ(解説文)

出版

東京創元社
創元推理文庫106-8
新発明の設計図を構えて、息子の元に旅立ったロンドンの富豪、ジョン・マギル卿が北アイルランドで消息を絶った。しばらくして、彼の遺体が息子の家の庭から発見されるが、息子にも他の容疑者たちにもアリバイがあった。失踪直前のマギル卿の不可解な行動、謎の男、アリバイの秘密などのもつれた謎をフレンチ警部は着実に解きほぐしていく。著者の作品の中でも一、ニを争う名作。

初版

1974年初版(290円)

重版

2003年15版(860円)

入手

セブンアンドワイicon amazon

ISBN

4-488-10608-0

【感想】★★★

 クロフツの代表作とも称される作品ということでかなり期待感を持って読み始めましたが、確かに鉄道技師をしていて鉄道関係には非常に詳しく鉄道を舞台にした事件と捜査活動がリアルに描かれていますし、またアイルランドのダブリンに生まれ、ベルファストで育ったということからこのイングランド西部から北アイルランドの地理にも詳しく、これらの地方の風俗などもリアリティ豊かに描かれていて、クロフツの個性が如何なく発揮されている作品だと感じました。

 最もミステリ自体の出来を考えるとこれは評価が非常に分かれる作品だと感じました。この作品は間違いなく本格の部類には入りますが、本作の焦点はクロフツお得意のアリバイ崩し一点だといっても言い過ぎではないと思います。犯人あての要素はあるにはあるのですが、この際あまり考えず、関係者のアリバイを詳細に検討した上で、どう構成していけば今回の事件の犯行が可能なのかをじっくりと考えていくことをお薦めします。
 あまり深く考えずにサラッと読めるというよりは、じっくりと一つ考えていくという形のミステリですので、時間と気持ちに余裕のある時に読むのが一番だと思います。

 アリバイ崩しだけを考えると、巧妙かつ複雑にトリック・伏線が仕掛けられており、解答を聞かされればそのプロットの上手さにおそらく驚きというよりは感心すると思います。

 ただ読み方を間違えて犯人あてだけを考えて読んだ場合はきっと全く面白くないミステリということになるかもしれません。クロフツは前半で犯人の犯行が描かれて、後半で探偵がそれを暴いていくといういわゆる倒叙ミステリもいくつか書いていますが、この作品はむしろ倒叙に近い感じがします。
 あるいはクロフツの場合は何と言ってもアリバイ崩しに重きを置く作品が多いため、犯人は結構早い段階で分かるようになっているという作品が多いのですが、この「マギル卿最後の旅」はそういったクロフツの本格ミステリを象徴するような作品と考えればよいのでしょうか。

 アリバイ崩しの点では相変わらずのきちんとした論理構成で安心して読め、本格ファンにはたまらないのでしょうが、それ以外にユーモアとか、サスペンスとか、他に注目すべきような要素は全くないため、前述したように読む人間によってかなり評価が分かれるかなというのが私の結論です。

 私個人の感想としてはトリックに非常に関心はさせられそれなにりは楽しめましたが、やはり犯人あての要素に乏しいのが少し印象度の点で寂しかったような気がします。どうせなら倒叙にしてしまって、フレンチ以下の警察陣が犯人を追いつめていく過程をもっと見せてくれればと感じました。最後にそういう要素があるにはありましたが、あまりに短かったような気がします。
 ただこのラストにその後のクロフツの倒叙ミステリの萌芽を見て取ることができ、興味深い作品ではありました。