出版 |
早川書房
ハヤカワポケットミステリ
1353 |
〈グランピアン座〉のその夜の舞台は順調に進み、いよいよ’怪力男’グレート・アルバートが登場した。台上に立った彼はいくつかポーズをとってその肉体美を誇示すると、続いていかにも重そうなバーベルをつかんだ。腹から胸、そして頭上高くバーベルはあがり、アルバートの両脚は緊張にぶるぶると震えた。そのときだった。舞台においてあったバスケットから大きなブルドッグが飛び出し、いきなりアルバートのふくらはぎに牙を突きたてたのだ。悲鳴が轟き渡り、怪力男はこなごなになった材木の山の中に落ちていった……
分かってるだけでも、これで七つ目の事故だった。ロンドンの主なミュージック・ホールで次々と起きた芸人たちの事故。あるときは空中ブランコのロープが短く切られ、あるときは剣のみ芸人の剣にからしが塗られていた。しかも今夜は、ご丁寧にも事故の予告の手紙が警察に届けられ、クリッブ巡査部長とサッカレイ巡査の目前で起きたのだ。まだ死人こそ出ていなかったが、あいつぐ奇妙な事故の謎は、このスコットランド・ヤードの敏腕コンビを悩ませた。しかも、恥をかかされた芸人たちは、一人残らず行方をくらましていた!
十九世紀末、シャーロック・ホームズ活躍の頃を舞台にした時代ミステリの決定版。英国推理作家協会賞に二度輝いた、傑作本格推理シリーズ第二弾。 |