出版 |
早川書房
ハヤカワポケットミステリ
177 |
その夜も、ピートは35番街と9番通りの交叉点で車の窓拭きに精を出していた。赤信号で止まった車に駆け寄り、ぼろ布で窓をひと拭き─運がよければ、10セントのチップをはずむ運転手もいる。だが、そのキャディラックは様子が変だった。運転席に坐った女は声を立てず、口をしきりに動かしてピートに訴えかけた─「助けて。警官を呼んで……」ピートが呆然としているうちに、異変に気づいた同乗の二人の男はピストルらしきもので女をこづき、車はそのまま走り出してしまった。女の頬にあったかすり傷と、耳につけた大きな金の蜘蛛のイヤリングの強烈な印象だけを残して……。
12歳の少年ピートが訪ねてきた夜は、たまたまネロ・ウルフの虫の居所がよくなかった。フリッツのつくったつぐみ料理が珍しく気に入らなかったのだ。ウルフとアーチーは、ピートの話をまともに聞きもせず少年を帰してしまった。そして翌日、ピートが車にはねられて死んだというニュースが伝えられた。しかも、少年をはねて逃走した車のナンバーは、昨夜少年がひかえておいたキャディラックのナンバーと完全に一致していた! 貯金箱の4ドル30セントをネロ・ウルフへの依頼料に、と言い残して死んだ少年。蜘蛛のイヤリングをつけた謎の女をめぐる連続殺人に、美食と蘭を愛する名探偵ウルフと、その助手アーチー・グッドウィンが挑む! |