出版 |
早川書房
ハヤカワポケットミステリ
296 |
本書の著者コーネル・ウールリッチが『黒衣の花嫁』『黒衣の天使』等の傑作を書いたほか、探偵小説中のたぐい稀な名作といわれる『幻の女』を書いたウイリアム・アイリッシュであり、また『夜は千の眼を持つ』のジョージ・ハプリイであることは、すでに読者のご承知のことであろう。ウールリッチは雰囲気の作家である。ストーリイ自体にも、文章そのものにも、一種の寂しい孤独感がこもっている。彼の作品の行間から吹き上がってくる甘いもの悲しい淋しさは、アメリカの作家には類をみないものであろう。趣は少しちがうがオーストリアの作家シュニッツラーの持味と通じるものがあるようだ。シュニッツラーが男ごころの切なさを描くとき最も筆が冴えるように、ウールリッチも若い女の異状な人生経験を描くとき、その独特な持味をいかんなく発揮する。こうした雰囲気の持主であるウールリッチは長編の数も多くあるが、本来的には短篇を得意とする作家であって確かに短篇ないしは、長篇でも短篇風のコンポジションを持っているものに傑作が多い。
この短篇集はこうしたウールリッチ独特の雰囲気を主眼として編集したものである。これによって忘れがたい持味を味わっていただきたい。 |