出版 |
早川書房
ハヤカワポケットミステリ
389 |
ドナルド・ラムがオフィスに入ると、机をはさんでバーサと向いあって坐っていた女がちょうどハンドバッグをあけるところだった。女はひどく手間どってから250ドルの金を取り出した。金を取ろうとせっかちに手を出したバーサの165ポンドの体重の下で、椅子が苦しげな悲鳴をあげる。女は煙草に火をつけた。シガレット・ケースの頭文字はC・Hだった。ラムがそれを見ているのに気づくと、女は何げなく手でかくすようにしたが、その手は小きざみにふるえていた……
女はビアトリース・ボールウィンと名乗り、不動産業者として羽振りのいい叔父が妻のダフネに毒を盛られそうだから、何とかそれを防いでほしいと言ってきたのだった。家庭の中で秘かに行なわれる犯罪を未然に防ぐことは、事実上不可能に近い。だが、強欲なバーサが勝手に引き受けてしまったからには後へ引けない。しかもドナルドは女の不審な様子と、つじつまの合わないシガレット・ケースの頭文字に興味を惹かれた。これは尋常な事件ではなさそうだ。好奇心を掻きたてられたドナルドは素晴しいアイディアを思いつき、ボールウィン家に近づいた……その矢先、ボールウィン家で毒殺事件が発生した。しかも、事件はドナルドが予想もしなかった方向へと走り出していた! 渦中にどっぷりつかりこみ、危機に瀕したドナルドが瀬戸際に放った名推理とは? |